音に押される

冨岡三智

去る11/19に大阪の玉水記念館ホールで開催された『エスニック・ナイト2022 ジャワ舞踊編』公演で「ガンビョン・パンクル」を踊った。その時に覚えた不思議な感覚の話。

それは背中に音がぶつかってくるような感覚だった。音楽にはまな板のように厚みがあって弾力もある。まるで、背中に巨大なコンニャクが飛んでくるような感じである。さらに、チブロン太鼓の音や掛け声が手裏剣のように背中に刺さって、背中や腕がぴくぴくっと動く。今まで踊ってきた中で、音がこんな風に聞こえた…というか身体に響いてきたことは初めてである。

ここで押されるとか刺さるとか言ったけれど、決して否定的な意味ではない。こんなに音に支えられた経験もない気がする。踊ったというより、半ば踊らせてもらった感じだ。大音量のロックコンサートでも、ジャワよりもずっと激しいバリのガムラン音楽でも、音は空間全体を満たしても刺さるまでには至らなかった。この公演ではそこまでの音量はないのに、なぜ筋肉が動いてしまうのだろう。この公演では舞踊スペースと観客席が同じ平面で、舞踊スペースの背後に高さ45cmの演奏者用ステージ台がしつらえられ、その上にガムラン楽器が配置された。ちょうど楽器の高さが私の背中辺りになるが、この高さが絶妙だったのだろうか。PAのやり方も関係あるのだろうか…。

ガムラン奏者は床に腰を下ろして楽器を演奏する。通常の公演では楽器は踊り手と同じ平面に置かれるから、音は踊り手の腰よりも低い位置から聞こえてくる。つまり、音は下から立ち上りながら渾然一体となり、踊り手の耳に届く。あるいは、音は天井までいったん上がり、上から降ってくるように聞こえてくる。ジャワのガムラン音楽はそんな風に聞こえるのが当たり前だと思っていたのだが、音が3次元空間のどこからどんな質感でやってくると動きが生きるのか、もっと探求してみよう…と思ったことだった。