236 夏の記録

藤井貞和

私たちは 皆、(とアーサーが言う。)
第五福竜丸に乗っている、と。

航跡が伸びて、
歳月の暗部のさいごの送り火。

定型詩の歌姫は去る、もう、
帰らないからね、さよなら。

この国をひとりぼっちにする。
なにものこっていないが、

荒地の奥の普通の詩人と、
氷島のしたの普通の詩人。

歌わなければならないな、
ひとりになっても。

普通の詩人が歩いてくる、こちらへ、
跨ぎ入れることばを思いながら。

(被爆は三月一日。なぜか夏の記憶に。)