フジロックのクラフトワーク

若松恵子

フジロック2日目の7月27日、一番大きなグリーンステージのラストにクラフトワークが登場した。野外で聴くテクノポップに、おおいに期待して出かけて行ったのだった。電飾でふちどられた4つのテーブル(その前にメンバーが立って、卓上の物を操作して音楽を作り出すのだ)がステージに登場すると観客からどよめきが起こった。あの、クラフトワークなのだ。

14歳の頃に、渋谷陽一がDJを務める「ヤングジョッキー」で紹介された「アウトバーン」に衝撃を受けて、それ以来のファンだという夫が集めたレコードやCD、DVDが家には転がっていて、私にとっても見かけたことがある、あの、クラフトワークなのだった。

バックに流れる映像がバッチリ見える場所を確保して、クラフトワークの世界を浴びた1時間40分だった。知っている曲、おなじみの映像を生で体験する感激というのも、もちろんあったけれど、再現というのではなく、1曲1曲が新鮮なパフォーマンスだった。フジロック特別バージョンというような印象もあった。ずっと聴いてきた夫の解説によると、シンセサイザーの創成記からテクノロジーの発達と共に歩んできた彼らの音楽は、機器や映像技術の発展も相まって、今、とてもシンプルな装置で、やりたい音楽をできるようになっているという事だ。不必要な物をどんどん片付けて、ミニマリストの風情がかっこいいのだと。

確かにクラフトワークの作る音楽や映像のかっこよさや気持ち良さは、合理的に発達していく人間のかっこよさや美しさなのだろうなと思う。数字やマークや道具のデザインの洗練された美しさだ。テクノロジーを駆使しているけれど、とても人間的な感じ、それが私の感想だった。機械が自動で奏でている音楽ではなくて(テクノポップに対する何たる稚拙な誤解!)、やっぱり人が演奏していて、映像もCGとは違う、どこか手仕事感のある感じがクラフトワークの魅力なのではないかと思った。こんな事を言っているとクラフトワークにうっとうしいと思われるだろうけれど、それが分かったことが自分としては一番うれしいことだった。

ライブの中盤、オリジナルメンバーのラルフ・ヒュッターが坂本龍一との思い出を短く話して、「戦場のメリークリスマス」のカバーが演奏された。背景には1981年の2人の写真が映し出された。続けて演奏されたRADIO⁻ACTIVITY(放射能)は、改めて放射能汚染の危機について地球がSOSを発しているのだという事を思い出させた。坂本龍一に呼ばれて「ノーニュークス」のライブでも演奏した曲だ。被爆した地として、ヒロシマ、フクシマが読み上げられ、「今すぐやめろ」という単刀直入な言葉が続く。この2曲は今回のライブのハイライトだったと思う。

フジロックにクラフトワークが来てくれて、本当に良かった。
曲名を見れば頭の中に音楽が鳴る人たちのために、演奏された曲目を書いておく。

・ナンバーズ
・コンピューター・ワールド
・コンピューター・ワールド2
・コンピューターは僕のオモチャ
・ホーム・コンピューター
・スペースラボ
・ザ・マン・マシーン
・アウトバーン(ショートバージョン)
・ザ・モデル
・戦場のメリークリスマス
・ガイガー・カウンター/放射能(フクシマバージョン)
・ツール・ド・フランス
・ヨーロッパ特急
・ザ・ロボッツ
・電卓
・ミュージック・ノン・ストップ