とよおか梅園

北村周一

口中に花のかおりの淡くして
 あゆむ坂みち梅園におり

なだらかに香りひろがる
 梅園のながき坂みち豊岡へ来ぬ

イッパツで
退場なのに
のうのうと
知事をしている
レスラーの人

アンケート
好きなる国の
ひとびとの
みみを欺く
音の洪水

歌うとは訴えること手始めに
 そんなおうたがひとつ届きぬ

小正月郵便夫よりわたされし
 訴状は何をものがたるのか

原告と被告の欄のそれぞれに
 母と子の名が記されてあり

母からの文のごとくも綴られし
 訴状を読んで暮らす一月

親と子のきずなは永久につづくらし
 問いつ問われつ昏ゆく二月

おとうとの電話の声は猛猛し
 蜜柑がひとつ卓上にあり

遠雷やひとに父あり母のあり
 二物衝撃レーザービーム

母がいうなんであたしが悪いだね、
 おまえにゃあ何もいえんなと父

わが母のごとく歩めるみずからを
 ビデオに見つつ編集をせり

洋箪笥の
木目の中に
迷い来し
母に子の無し
川原で泣きぬ

ここにねむる 
父が脳天
墓石に
打ちつけたのが
夢の始まり

父よ母よ友よ神よといってみる
 仰向けに見る空のおおきさ

春を待つゆきふるくにの母と娘の
 冬の夜話ページをめくる

ねむくなるまでの約束またあした
 説いてきかせる声はねむそう

結び合う手のぬくもりもまたあした
 絵本のなかへ帰りゆく子ら