満開のツバキの花もそこそこにメジロ素早しいずこかに消ゆ
ジグザグに飛ぶを見ており路地の端メジロは知るやその行くさきは
落ち葉かげ風に吹かれて窓のした消え入るごとも小さき鳥は
目を閉じてガラス扉の下ひっそりと野の鳥いたり黄緑いろは
かげ淡く窓のガラスにのこりいて散りにけるらし野の鳥ひとつ
ガラス扉にうつりし陰はみずからと知らで飛び立つ一羽の鳥は
ガラス扉につばさ広げて立つ鳥の視野に入らぬあわれその先
飛ぶ鳥の視野にひろがるガラス扉のくらみ思えり透明ゆえの
地の上に零れ落ちたる野の鳥の視野に溢るる透明の窓
翼もて窓にしずみし二粒の目より滴る透明の雨
ふかぶかと窓にうつろう空のはて吸い込まれゆく快感おもゆ
空蒼く映り込みたる空間に恐れ抱かぬ翼もつきみ
窓にひろがる空に羽ばたく鳥たちの目にはさやけし限りなき青
迫りくるガラスの窓にキジバトは何を見たのかつばさ広げて
ガラス扉に飛ぶ鳥の痕うっすらと遺せしままにキジバトはゆくも
うすらかげ鈍く残れるその真下ねむれるごともキジバトはあり
あちら側へ羽ばたきたりし野の鳥の絵姿あわれガラス扉が知る
空間に酔い痴れている鳥どちの声聴きに行く土手の裏側
放し飼いの隣家のチビというネコが庭に来ておりことり咥えて
雨あがり春の気配にみずたまりのぞき見ているくろしろのネコ
サザンカの花と知りたる秋にしてこの世の闇の境い目のどか
ほのぼのと冬の訪れ待つように花咲くところサザンカの家
山茶花の赤白桃いろありまして賑やかなりぬ古淵の家は
夜になると勢いを増すさざんかの花のみいろを数えおるなり
はじめての秋を迎えしこの家のおもみに堪えてサザンカ咲くも
わが家にも目白来ておりゆく秋の庭のサザンカそろそろ見頃
花ことばひたむきなれば声ありてつよく生きよとみみに囁く
山茶花の覚えめでたき秋の日や クルマ替えたり七人乗りに
風吹けばはらりはらりとどこへやら庭のサザンカ散り終えにけり
サザンカの花の散り際みるようにひとりふたりと離れゆくらん
ちりぢりに散るを厭わぬ山茶花のはなの終わりはやさしくもあり
サザンカの花ちり終えし庭かげにくらく仄浮く売家の文字は
常永久の愛と告げられ見返れば眩暈のごとく古家ありけり
売りに出す家一軒の寒さかな 冬至を過ぎてイヴ待つ宵は
散りもせず落ちもせずして枯れのこる庭のさざんか春待つごとし
古家ひとつ売りに出だせば矢庭にもさやぎ立ちたるさざんくわの闇