バード・ストライク 前夜
白堊の闇にあかいあさひの差すところ メジロはうたいサザンカは舞い
赤からしろへはなばな咲かせとりを呼ぶ庭のかきねのあさ待つじかん
老いもわかきもコトリとなりてしばらくはこのそらひくく漂えるらし
うめの香匂うそらをあおげばメジロ来てともに見ているこうはく梅図
梅のかおりのたゆたうところわれよりもつねにさきゆく目白のふたつ
梅のめぐりに鳴きつつ飛ぶはメジロにて飛ぶを止めればたちまち梅花
口ぶえ鳴らしメジロは行くや 眼下にはみぎりひだりにサクラぜんせん
めじろ同士声を合わせて落ちてゆく いちにのさんで やまさくらばな
うすくれないの花もそぞろにあきあきて萌黄いろめく空の子メジロ
雄蕊雌蕊のはなふところを揺らしながら遊ぶメジロの隣りにもメジロ
しり取りあそびのつづきのように花々のミツを吸い吸い春告げにゆく
みなみのそらへ蜜をもとめてわたり来るメジロもいると春いちばんは
紅ツバキの木みごとなれどもおもおもし 目白はきらうものものしきは
にわの木の見映えよろしき医者の家 メジロらしげく寄り来たるらし
アカイアカイつばきの花もそこそこに目白は去くもそのかげにわれ
とりどりのはなからはなへ路地を来てメジロはすでにわが視野のそと
ジグザグにとぶを見ており路地の端 メジロは知るやその行くさきは
さきをいそぐと見せかけてメジロたちお茶をしており梅の木かげに
はなかげに花すいふたつふうわりと羽をやすめりどちらか身おも
どちらともなく目くばせ交わしふとも消ゆメジロのふたつ 春が来ている
花吸いとも呼ばるるとりの鳴き交わすこえはまぢかしわがかざかみに
チチよチチよとうち羽振り鳴くこえは(ははよ)聞こえますか めざめよとうたうその声
つばさ震わせチチと鳴くときそよぐかな きみどり美しきそのうらおもて
めじろの目より近いところに我があるを すがた消したりふり向きざまに
多角的なる目をもつとりの視野のさき すでに来ている絵を画くオトコ
メジロらのねぐらはいずこと垣根ごしに杳くみており西方のひと
とおのく刹那せつなにうたう恍惚はメジロのみ知る その世界観
花びらにみみかたむけてなにごとか告げんごとくもメジロ揺れおり
囀りは長兵衛忠兵衛長忠兵衛 メジロは啼くも オスのみに啼くも
ここは宙宇のきりぎしにして境川の土手に息衝く春告げどりは