一昔前の、テレビコマーシャルを想い出している。
映画監督の黒澤明が出演して話題となった、ウイスキーのCMである。
そのときのコメント、曰く、「悪魔のように細心に、天使のように大胆に」。
調べてみたら、1970年代後半にオンエアされたものらしい。
このキャッチフレーズと同名のタイトル本が、自身の書籍として、1975年に出版されていることもあり、多くの人の記憶に残っているようだ。
ちなみに、テレビのコマーシャルに流れていたときのBGMは、ハイドンのシンフォニー94番ト長調「驚愕」の第2楽章だといわれている・・・。
いま、一枚の写真が目の前にある。といっても、パソコンの画面の中だけれど。
色艶のいい二人の男が、固い固い握手を交わしているそんな場面である。
黒い座卓を直角に挟んで、たがいに相好を崩しつつじっと見つめ合ってもいる。
卓の上の皿に盛られたミカンが、二人に負けないくらいつやつやしていて、ちょっと異様な雰囲気を醸し出している。
比較的恰幅のいい初老の男は、向こう正面にすわりながらやや中腰の姿勢。
座卓の右手にどっしりとすわっている強持ての男は、すでに老人である。
二人は、20歳以上年が離れているが、きわめて仲が良いことは、この古い写真を見ていてもわかりすぎるくらいわかる。
たちまちに 意気投合の 証しにて サンタとサタン 握手の写真
向かって左側にすわる、比較的恰幅のいい初老の男に白いひげをつけて、赤い上下の洋服と帽子とを纏わせれば、サンタクロースに早変わりと相成ろう。
向かって右側にすわる強持ての老人は、昭和の妖怪という異名をとっているだけに、見るからに肝が据わっている。
ニヤニヤと ニタニタのちがい 妖しきに 目尻を下げて 老いを楽しむ
ところでこの握手の写真は、いつごろ撮られたものなのか、ことのついでに調べてみたら、1973年の、11月23日という記載が見つかった。
場所は、教会の本部とも書かれている。
東京では、木枯らし1号が吹くころか。
それにしても、立派なミカンだ。
追い詰めて みればすなわち 土俵際に 追い詰められても ゆく二人連れ
黒澤監督の、座右の銘でもある、天使と悪魔の譬えに話をもどすと、天使はいつだって神がうしろについているから大胆不敵になれるのであろうし、一方悪魔は、つねに神の目を盗むようにして悪事を働くわけだから、当然用意周到に事を運ばざるを得ないのであろう。