人感センサー

北村周一

梅雨に入る
まえに来ている
大型の
二号台風
卯の花くたし

命日が
刻まれてあり 
三月の
地震のあとの
六月の雨

重さから
解かれしきみが
虹いろの
灰となりつつ
散りゆくまでを

きみひとり
ねむる木箱の
静けさを
乱さぬように
しぐれふる雨

運ばれゆく
柩のうえに
翳されし
雨傘黒きが
二つ三つほど

毎日を朝日日経神奈川ときたりしのちに東京にする

点滴の
針の刺しどこ
あぐねいる
看護婦さんの
荒れたゆびさき 

静かなる
青のめぐりに
指の先
あててききいる
赤き血の音

命日はみつけられたる日とききぬ
 独り居の女流画家のいちじつ

ねてはさめ
さめてはみいる
銀幕の
繋がるまでの
撓める時間

ほのぼのと
熱き湯いだす
置物の
ふたつちぶさが
男湯にあり

うれいなき
ひとのからだの
軽々と
浮くも沈むも
坪湯にひとり

のむ前の
ひとときこそが
愛おしい
夏でも燗の
酒と決めつつ

紅生姜
なくてはならぬ
それのため
走り買いゆく
次男のさだめ

この家に人の影なき午前二時 
ねむれぬ者は
汗掻くのみに