8/1 金
ソラちゃんは毎年夏には外で寝る。島育ちのせいか、人工的な涼しい風は好かんらしい。それでも8月に入って彼のブームが一変したらしく、ちょっと蒸した2階の部屋で寝るのがええらしい。ただし、本棚で寝るし本どかしてとか、パソコンの前で寝るしキーボード避難さしてとかいちいち注文が多い。しまいにはこのクソ暑いのに膝貸せと言う。このブームもいつまで続くか、また外で寝ると言い出すに決まってるんやけど、この夏は暑いし心配やから勘弁してほしい。
夕方から兼太郎さんの落語会。日暮里から千駄木って歩いてすぐやと初めて知った。行った事ある場所も路線が変わって近い駅から歩いてみると、町々の位置関係がわかって面白い。能のお稽古場が会場で、ご贔屓さんがみな優しくてあったかい会なんやけど、なんせ高座が近すぎる。毎度行くたびに噺の間キョロキョロしてまうのやった。
8/3 日
数日前に86歳のお友だち、おたかさんから着信があった。掛けなおしても応答なし、ひとり暮らしやし心配してたがようやくお昼に電話が繋がった。声は想像より数段元気で嬉しい限り。去年は全然ものを食べず、栄養失調になってしまったのを教訓に、今年は仕事と思ってがんばって食べてるらしい。頭も暑さでやられんように図書館で借りてきた小沢昭一の本をせっせと読んでむっちゃおもろいとのこと。なんじゃかんじゃと小一時間も談笑して、涼しくなったら遊びに行きますと約束して電話を切る。あ~はよ暑さが和らいでくれんかな、ってまだお盆前か。
8/4 月
日中はうだるような暑さで頭がぼぉっと気持ち悪い。何とかシャキッとせねばと朝から浴衣で仕事する。帯をしめたらさすがに背筋が伸びるからありがたい。お昼過ぎ、おかぁはんから梅干し届いた!と報告があった。ちぃこい段ボールを開けるとノミが1匹、ぴょんと飛び出したらしい。そういえば荷造りの時にソラちゃんが段ボールに入って寝てたっけか。なんちゅういらんおまけ送ってんねん!
8/5 火
今日は家の前で大工さんたちが外装をやってるらしい、朝っぱらからトンカンの音とすぐそこで話す、どこかの国の言葉が。おしゃべりがひとり混じってるらしい。蒸し風呂のような暑さにこの音は結構体に響く。せや、落語「王子の狐」で有名な王子稲荷神社に行こうと夕方に出発する。歩いていけるくらい近いらしく、高架を渡ると名主の滝公園の木々が見えた。ちょっとでも木があると涼しい。そこから少し過ぎて坂を登ると立派な神社にたどり着いた。狛犬もいはるけどいろんな表情の狐がいっぱいでかわいらしい。お参りをして、参道にある石鍋商店へ。有名なくず餅をお土産に帰る。無添加でその分日持ちもせぇへんけど、むちゃくちゃおいしい。うまいうまいと言いながら公子さんと一緒に食べた。
8/9 月
思い立ったが吉日、目覚まし時計がほしい!と町へ繰り出す。携帯電話で時間を無駄遣いせんようにするため、距離を置くようにしてる試みの一環。朝起きてすぐに携帯を触らんでええようにする事で携帯からもう一歩距離を取りたい。商店街へ行ってみるものの時計屋はもうないし、眼鏡屋では時計の取扱がないとこだけ。さぁどうするかなぁと踏切を渡ってふと顔を上げると、商店街のちょっと先に昔ながらの時計屋さんを発見。店主のおっちゃんから別に何の変哲もない小さい目覚ましをもろて帰ろかなと思ったら、奥からおかみさんが出てきて何じゃかんじゃと世間話。ドイツに住む息子さんがこの夏帰ってきてたらしく、お土産のインスタントスープの作り方が分からんというのでレシピを読んであげた。お孫さんも日本の夏を楽しんだと思い出のアルバムも見せてもらった。ちょっとの買いもんに出ただけで色んな話ができる、チェーン店にはない面白さが十条にはまだ残ってると思う。しかし時計屋のおっちゃんはうちのじいちゃんにどっか似てて優しそうな方やったなぁ。
8/10 日
しのばず寄席で御徒町へ。ちょっと早くに家を出て、意外にもまだ行けてなかった湯島天神さんへお参りに行った。下駄で女坂をおそるおそるのぼっておりて。手すりがないから久しぶりにむっちゃこわかった。とにかく転げ落ちんで良かったと安堵しながら広小路亭へ戻る。今日最高におもろかったのはこしらさんの「死神」。今まで色んな人の聴いたけど、いっちゃんおもろかったんちゃうかな。
8/13 水
今日は古川ロッパのお誕生日でおめでとうさん。今月は日記魔、ロッパの日記を戦前篇から読んどるけど面白い。自分の誕生日でなくてもおいしいもんばっかし食べたはる。
朝からお稲荷さんにお参りして図書館へ。最近は暑くてもっぱら浴衣でうろうろしとるけど、図書館も勿論浴衣。警備のおじちゃんに素敵ですね、なんて声を掛けられて大変に上機嫌でそのまま和菓子屋の狸家へ。狸のかたちをした、世の中でいっちゃんかわいい最中を作ったはる。店に入ると暖簾の向こうから狸のような愛らしいおとうさんが出てきた。思わずほんまの狸の家に訪ねて来た感じ。注文してから奥へ戻って餡子をつめてくれるが…怪しい。奥では元の姿に戻ってんのとちゃうか、なんて思てたら餡子たっぷりの試食をくれはった。やっぱし狸さんは優しい。狸の家を後に、そのまま石鍋商店へも行くと、こちらは狐顔のおばちゃんが迎えてくれた。お稲荷さんのお膝元で狐も狸もお店してんねやなぁとしみじみ思う。お赤飯とくず餅を買うて家路に着く。なんでこんなにお菓子づくしかというと、今日はいつも色々くださる花さんが来はるから甘いもんでお迎えしようってワケ。花さんは今回も大山で買ったキムチをたくさん手に、うちへやってきたのだった。
8/15 金
今月のハイライトはこの日から始まった。前の出稼ぎを辞めて早4ヶ月、引越しも落ち着いたしそろそろ働きに出るかと色々と探すうちに、たまたま近所でええ求人を見つけた。それはどこかというと、大衆演劇場!場内案内のバイトで今日が面接。いつも前を通りながら入ってみたいと思ってた劇場に初めて足を踏み入れた。今春にリニューアルしたらしくえらく綺麗。私のヘンテコリンな経歴の載った履歴書を見せつつ話をしてたら、今までしたデザイン見せれる?と聞かれてどきっとする。そっちの準備もしてたら良かった…と思いつつポートフォリオサイトを見せると、実はデザイナーも募集しようと考えてたというのでありがたすぎる話!!大衆演劇ズブの私はとりあえず現場で働きつつ色んな劇団など勉強し、後々はデザインの部分にも関わる方向で即採用となった。嬉しい!新しい世界や!!帰りに王子神社と王子稲荷へまわって、よくよくお礼を言うて報告した。
8/16 土
初出勤の前に一回どんな感じか観においで、という事で昨日の今日で初の大衆演劇。演目は何と落語の「死神」。今月は死神フィーバーや。話の筋が分かってるからスッと入ってくるし、何より今まで落語で聴いて想像してたのを実際に役者が演じると面白い。子役のお子たちが真っ白に塗って死神役で足元にちょこんと座ってるのがかわいかった。あっちゅう間の1時間、お客さんがハマる魅力を垣間見た感じ。これで毎回違う演目をするってのがすごすぎる。休憩をはさんで舞踊ショー。最初は爆音とライトに目が眩んだけど、慣れるとぐんぐん惹きつけられる。所作が美しくて着物が面白い。表情も豊かでどこを観ても勉強になる。一回別世界へ迷い込んで、終わると現実世界へ急に引き戻された感じ。うわぁ…と余韻に浸ってると若女将に呼ばれ、働くときに着るTシャツを渡される。嗚呼、おもろいとこに来たな、と思いつつ、ここで働くねんなぁと身が引き締まる。
8/17 日
10月のhoro books演芸部主宰の公演に出てもらう和子さんと、旦那さんの茂さんの自宅兼アトリエ・ギャラリーへ、刷り上がったチラシを持って行く。千葉県の師戸(もろと)という、関東の土地勘が薄い私にとっては全く聞いたことも読めもしない場所だが、どうやら関東の人にとってもあんまし馴染みはない所らしい。何しろハイエースのようなバスは1日に2本だけ駅から走ってるという、ドが付く田舎らしく、田舎出身の私ですら駅を降りて、えらいのどかやなぁ~と思う場所やった。バスの時間を和子さんが前もって伝えてくれてはったのやけども、びびって早く着き過ぎてバスの時間まで1時間以上。よし、久しぶりに自然を歩こう!なーんて阿呆な考えを起こし、駅のコンビニで水分と冷たいものを少し買って無謀にも炎天下を歩いた。後から知ったことだがアトリエまでは4キロ弱、酷暑に歩く距離やない。日陰がなくて途中で死にそうになりながら沼と川を越え、竹林の陰で休憩を取りつつ山の方へ。途中にあった神社で、倒れずに着きますようにと腹の底からお願いをして山を越えると、もう一段階上のほんまの田舎!おうちが大きいのは勿論やけど、たっぷりのお庭がついてる。ぜーぜー言いながら何とかたどり着き、アトリエで涼みながら紫蘇ジュースをいただいた。ギャラリーへ来てたお客さんと談笑し、ようやく生き返ってから植田工さんの展示を拝見。茂さんとの絵の合作が面白かった。お昼食べてきな、とおいしいごはんまでいただいてギャラリーの周りを長靴で散策。林の中には猪用の罠が仕掛けてあるからひっかからないでね!との言葉を胸に、木々が生茂る庭を歩いた。久しぶりに緑がいっぱいで空も広い。自然はええなぁ~なんてあちこち歩いた。近くに住むトルコ人がエミューとヤギと羊と鶏飼ってるから見に行こ!とみんなで行くと、思いの外たくさんいてちょっとした動物園みたいな感じ。羊は毛を刈ってもらってなくて熱中症みたいにすみっこの陰でしんどそうやった。夕方までのんびりさしてもろて、帰りはさすがに車で駅まで送っていただいた。そっから電車で汗をキンッキンに冷やされたから大変。ちょっと気持ち悪なって、家の近くの蕎麦屋に寄ってきつねうどんをすすってから帰る。疲れてぼんやりしながら、関西の透き通ったおだしのきつねさんを想像してたら、黒い汁のおうどんでびっくりした。せや、ここ東京やったわ。
今日はアホみたいに歩いて疲れた1日やったけど、色んな人に会うて楽しい日やった。
8/22 金
いよいよ初出勤でドキドキ。家から劇場までは直線で10分弱で行けるけど、お稲荷さんへお参りして回り道してから行く。朝にちょっと散歩できるのはむっちゃええねんけど、なんせ暑い。涼しなってくれたらちょうど良さそうやのに。出勤して掃除から始まり、お客さん入れて…と何となく1日の流れを見る。席の予約が電話受付やからなんせ電話がよう鳴る。電話ってあんまし得意じゃないけど、この際克服できそうやわ。初日やしあたふたしてる間に1日目が終わった。ほんで今日は出稼ぎ先決まってのお祝いという事で花さんとごはん。近くにはるき悦巳先生の漫画に出てきそうなお好み焼き屋さんがあるというので公子さんと3人で行った。大阪出身のおっちゃんとバレイを今でもやっとるというシャッキリしたおかみさんのお店で、東京で初めておいしいお好み焼きを食べた。人も味も全然気取ってなくて、むっちゃええとこ近くにあって最高やわ。
8/26 火
今日は待ちに待った12月公演の稽古の日。12月は噺家と役者で落語「一眼國」をやるという趣向で、兼太郎さんと黒テントの役者の初顔合わせ。公子さんは待ちに待ちすぎて体調不良。ここのところむちゃくちゃ暑くて熱中症っぽくもあるし、とにかく体調悪そうで心配。今日は行くのを断念して代わりに私が座布団抱えて稽古場へ向かう。到着してすぐ、役者さんたちの顔につける、ひとつ目の試作を貼ってもらう。意外に大丈夫そうやし次は布選びに行かにゃならん。そうこうしてると兼太郎さんが到着、一席通しで「一眼國」をやってもらう。それを録画さしてもろて、後は劇団の方で役者の動きを練ってもらう。どういう風になるのか楽しみ。
一回目の稽古を終えて、みんなでごはんへ行った。酒が入ってみんなが打ち解けて、それが今日の一番の収穫やったと思う。
8/27 水
今日も演芸場へ。夕方まで働いて、帰りに銭湯で汗を流し、お肉屋さんでコロッケと、宵の口まで開けてくれてはったお豆腐屋さんでお豆腐とお揚げさん買うて、帰って食べて寝る…なんて贅沢な暮らしやろうと布団の上でしみじみ感じた。
8/30 土
今日は演芸場の楽日。昼公演が終わったら大掃除~と聞いていたから、入った事ない裏の方が見れるのか、とちょっとワクワクしておった。1ヶ月ごとに劇団が移動するんやけど、すごい荷物でさながら引越しそのもの。これを毎月やってる劇団の方々ってすごいなぁ…と感心した。演者の方々がはけると楽屋の掃除。迷路のように部屋が並んでて色々新鮮。隅々まで掃除して、早く終わったからと若女将がみんなを焼肉に連れてってくれはった。まだ働き始めて5日くらいやのに、ありがたすぎる!ほんまに現場が一丸となって働くとこやねんなぁとしみじみ感じた。