むもーままめ(11)冷蔵庫買い替えの巻

工藤あかね

 調子良く物事が進んでいる時こそ、油断してはならない。そんなこと、すっかり忘れて生きていたのだけれど。

 つい先日、これは順調!と思える日があった。朝はそこそこ早起きし、洗濯機を回し、きちんと朝食をとり、作曲家とのリハーサルに出かけてみっちり稽古をし、いったん帰宅。午後から予約していたエアコンクリーニング業者の作業がサクサクと進んだおかげで、会期終了間際で行くのは無理かもしれないと諦めかけていた展覧会にも、急遽行くことができた。
 
 おまけに、帰り際ふらりと入ったお寿司屋さんが結構良くて、ホクホク。元気が出て調子に乗ってしまったのか、夕食を作る必要もないのにスーパーで生鮮食品などを買い込んで、自宅に到着した。

 ここまでは順調だった。超順調。完璧。

 それなのに、神様はどうして意地悪をするのだろう。私が調子に乗ったから?コロナ禍なのに展覧会とかお寿司屋さんに行ったから?

 自宅の冷蔵庫の下に怪しげな水もれを見つけたのだ。お化け屋敷に入る人みたいに超警戒状態で恐る恐る冷凍庫を開けてみると…ギャーーーーー!!!

 アイスクリームはドロドロに溶けて、ロックアイスは半分以上が液体に戻り、キノコ類はびしゃびしゃ、お魚もお肉も、今すぐ火を入れないと取り返しがつかないレベルまでぬるくなっていた。

 冷蔵庫からも冷気が出ていない。コンセントを入れ直したらなんとなく送風されているような気もしたけれど、だめだこりゃ。さっき買ってきちゃった、お肉やお魚や野菜はどうなるのーっ!!

 救えそうな食材という食材すべてに火を入れ、お弁当を作る時みたいに濃いめの味付けをした。せっかく夕食を食べて帰ってきたのに、おかずが大量にできてしまったので、酒盛りするしかなかった。無理して飲んだせいか、悪酔いした。

 翌日、冷蔵庫を買いに行った。痛い出費だけれど、冷蔵庫なしで暮らすのは厳しいから仕方がない。それにしても最近の上位機種には、共働きファミリーにも便利な機能がバンバンついている。ちょっと心惹かれたのだが、わが家ではハイエンド&大容量は求めていないので、物欲しそうな顔つきを封印してスルー。結局、野菜室が真ん中にある、使い勝手のよさそうな機種に決めた。

 あとは会計だけ、という段になった時、お店に常駐している携帯電話会社の営業が猛攻を仕掛けてきた。携帯電話の料金、自宅のインターネット環境、電気会社を見直さないか。うまくいけば今日の会計から大幅値引きができるという。説明は15分で済むから、ご検討いただいてから会計を、といわれて話を聞いたが、結局いろいろ契約をすることになったので3時間半座りっぱなし。まあ、携帯の料金が安くなるらしいのはありがたいけれど、電気屋さんに冷蔵庫を買いに行って、まさか会計を人質にとられるとは、予想外すぎた。

 数日後、わが家に新しい冷蔵庫が届いた。超快適である。こんな劇的なきっかけでもないと買い替える気にもならなかっただろうから、「塞翁が馬」かもしれない。家電はいきなり寿命がくるから、10年後くらいに壊れないかドキドキしながら構えても無駄だよね。それなら大いに信頼して油断して、バタッと壊れた時に急いで対処すればいいか。