むもーままめ(24)口唇ヘルペスとの闘いの巻

工藤あかね

 今、わたしは、口唇ヘルペス発症中である。このひと月ほど、目が回るようなスケジュールで飛び回っているせいか、ストレスもあったのか免疫が下がっているようだ。数日前、唇の端に小さな水脹れがたくさんできているのを発見した。インターネットで調べたところ、にんにくをすりつぶしたものを塗ると良いとか、牛乳を塗っても効くなどと書いてあった。牛乳は切らしていたので、冷凍していた薄切りニンニクを唇に貼ってみた。眠りに落ちる直前まで鼻を刺激するニンニクのかほり。貼った箇所がじんじんと口唇ヘルペスに染みていたので「こりゃあ効きそうだ!」と期待して寝た。

 翌朝見ると、ニンニクの刺激はゼロになっていたが、ヘルペスは生き残っている。ニンニクがヘルペスとの闘いで力尽きたのだ。新しいニンニクスライスを貼ろうかとも思ったが、出かける用事があったので断念した。その夜は、発症箇所にメンソレータムをぎとぎとと塗り重ねてみた。そして今朝、メンソレータムとの闘いの結果なのか、前日のニンニクが頑張ったせいなのかわからないが、該当箇所がべっこう飴のような色になっている。治りかけているに違いないと確信した。

 ここで放っておけば良いのかも知れないのだが、どうも何かを試してみたくなってしまう。子供の頃だったら、かさぶたを早々に剥がして後悔することは何度もあったが、その頃の悪い癖が何十年も経って蘇ってきたのだ。まずはべっこう飴状になった患部にティッシュを押し当てて、悪い水が溜まっているのなら、とっとと出て行ってもらおうと思った。剥がしたティッシュを見るとわずかにべっこう飴が付着している。「そうだ、取り除いちゃえ!」と思い、ゆっくりと患部を拭った。するとべっこう飴の下からは真紅のエリアが出てきた。しまった、まだ早かったか。またやってしまった。表に晒された患部はじんじんと痛む。それでも、この痛みは早く治るために体が闘ってくれているのだと思えば、なんだかありがたい。

 真っ赤に腫れ上がっている自分の下唇を見ていたら、今でも時々テレビや映画のドラマの題材になる素晴らしい小説を残した、某有名作家のことを急に思い出した。画像検索してみたら、この方の若い頃は下唇がそんなに大きくなかった。後年の下唇のイメージがはっきりしていたので、意外だった。となると、いつから下唇が育ったのだろう。どうでもいいか。さて今夜は、牛乳を塗って眠ってみようかな。