むもーままめ(31)永久凍土系・謎みかんカレーの巻

工藤あかね

9月になるというのに、この暑さはなんなのだ。
食欲はあるけれど、灼熱の太陽の下、わざわざ買い物には出たくない。

ある日わたしは冷蔵庫の中をぼんやりと眺めていた。ほとんど空なのは一目瞭然なのに、冷気にあたってしばし涼んでしまうくらいに、暑さで頭がやられていたのだ。家にある食料は鶏肉とカボチャの煮付け、レタス、きゅうり、いただきもののトマト。あとは缶詰とか調味料か…。鶏肉を焼いて、あとはサラダにするか…と思ったところで、なにげなく冷凍庫の引き出しを開けてびっくり。ロックアイスの下から手作りみかんジャムが出てきたのだ。以前、大量に大きめ柑橘類をいただいて、食べきれない分をジャムにした。だが使うあてもないまま、すっかり忘れていたのだ。永久凍土から発掘されたマンモスみたい。永久凍土系みかんジャム発見。

で、それをどうするか1秒だけ考えた。なにせ暑さで思考停止しているので、とりあえず冷凍みかんジャムのパックを流し台に置いて、使う気でいた鶏肉に塩胡椒して鍋に突っ込んだ。鴨のオレンジソースっていうお料理があるよね…と0.5秒くらい考えて、なぜか鶏肉の上から永久凍土系みかんジャムを載せた。だが、このままではいつまで経っても火が通らないと思ったので、少し水を足して蓋をした。

くつくつと音を立てるお鍋。そろそろ鶏に火が入ったかな、と思い蓋をとると、くだんの永久凍土系みかんジャムは、見事なとろみで鶏にからみついている。色合いもきれいだ。ちょっとだけ期待しながらスープ部分を味見したら…うえっ…ものすごく苦かった。そもそも鍋に白ワインだとか調味料を入れるという発想は完全に失われていた。それにこの永久凍土系みかんジャムは、かなり苦味のある大きめ柑橘類を煮たものだった。この果物の名前もわからない。玄人向けの謎みかんだったので砂糖をかなり入れて煮詰めたのだが、なかなか甘くならなかったことをようやく思い出した。

さてどうする? 煮込み系料理で血迷った時のソリューション、それはカレー化である。とりあえず、煮ているものの味が微妙になった時には、カレー粉やカレールーを入れて最初からそれを作るつもりだった風を装うと、たいてい巻き返せる。謎の永久凍土系みかんジャムで煮てしまった鶏を救うのはカレーしかない。とりあえず、カレー粉をばーっと鍋に撒いた。コクがたりなさそうな気がしたので、そこに洋風だしと、ミニトマトを入れた。そうだ、多国籍にしてしまえ。みりんとお味噌も入れよう、ケチャップも少し、めんつゆちょっと入れよう…。甘味と緑色が足りない。カボチャの煮付けも入れちゃえ。こうやって思い出して書き出してみても、なかなかの気色悪さである。…かくして出来上がったのは、オレンジ色のとろとろの中に、鶏と真っ赤なミニトマト、緑色のカボチャの皮が浮かぶ、謎みかんカレーであった。

全く期待せずカレースープを口に運んだら、ちょっと驚いた。ファーストアタックは普通のカレー、しばらくするとかすかに味噌の風味、そして最後にちょっとさっぱりした苦味がやってくる。大きめ柑橘類の苦味はカレーとしてどうなのかと思ったが、これが不思議とクセになる。夏にゴーヤを食べたくなる、あの感覚とちょっと似ている。

暑さで煮えた脳みそだからこそ出来上がった、謎みかんカレー。思いのほか悪くない出来だったけれど、もう一回やるかと言われればどうかな…。あっ…謎の大きめ柑橘類で作った永久凍土みかんジャムはもう一パック冷凍庫にあるみたい。さて次はどうしよう…。