風が吹く理由(10)インタールード

長谷部千彩

一月に入ってからずっと悪い夢でも見ているような気分が続いて、私はあっさり萎れてしまった。でも、心のどこかで、萎れるのも人間にはよくあること、自然なことで、だから萎れていいとも思っている。
世の中には、風が吹いていると、反射的にその風に向かっていこうとするひとがいる。吹き飛ばされないように身をかたくするひともいる。
だけど、私は、風が吹く日は、草みたいに震えていたい。枝から離れ、空に舞う葉っぱのように、身を委ね、風に飛ばされることをあえて望む。
早く寝て、たくさん寝て、ぐうぐう眠っている間に時間は流れ、嫌なことも悪いこともみんなみんな片付いて、目覚めた時には春が来ていたらいいのに。
眠る前に飲む粉薬はわずかに苦く、子供の頃に飲んだピンク色の甘いシロップを、私いま懐かしく思う。”甘くないものを飲む”という行為が、大人であることの証なのかしら―。そんなことを考えながら、テーブルの上に置いたコップの水を眺める。