ゴールディ・ホーンの黄色い傘

野口英司

海外に比べれば犯罪発生率の低い日本ではあるけれど、昔に比べれば犯罪に巻き込まれる確率が格段に上がっているような気がする。今までのような平和ボケで街を歩いていると財布くらいは簡単に盗られてしまう世知辛い世の中になってしまった。もし、悪漢に襲われた場合に撃退するにはどうしたらいいのだろうか。やはり武器を持たねばなるまい。と言っても、銃砲刀剣類は法律に引っ掛かるので、何か武器に取って代わるような一般的なモノで代用しなければならない。

何が良いんだろうか?

そうだ! コリン・ヒギンズ監督の映画『ファール・プレイ』(1978年)の中でゴールディ・ホーンは、雨傘を使って悪漢を叩きのめしていた。見た目からして鋭利さを強調させている雨傘は、雨の多い日本ではやはり武器となりうる手近なアイテムだろう。

『ファール・プレイ』の舞台はサンフランシスコで、とりたてて雨が多いと言うわけではないそうだ。でも、この映画では必ずゴールディ・ホーンが黄色い雨傘を携帯していた。最初にその雨傘で悪漢を撃退したことから、悪の一味に捉えられた刑事からおびき出しの電話を受けた時に、その刑事は「雨傘を忘れずに」とさらりと言う。その言葉が何を意味するかバレないうえに、雨傘が武器となってゴールディ・ホーンの身を助ける手だてになると思ったからだった。

『ファール・プレイ』は『知りすぎていた男』をベースにしたヒッチコックのパロディ映画で、『逃走迷路』『ダイヤルMを廻せ!』『北北西に進路を取れ』などから拝借したシーンやマクガフィンをちょっとひねって面白可笑しくストーリーの中に取り込んでいるテクニックが素晴らしく、何度も何度も名画座に足を運んだものだった。そして、あまりにもこの『ファール・プレイ』が好きすぎてサンフランシスコのロケ現場まで行ってしまった。

この日はゴールデン・ゲート・ブリッジまで見渡せるほどよく晴れていたけれど、翌日はしとしとそぼ降る雨で、その中をあちこちと出歩いたものだから高熱を出してしまった。ああ、今思えば傘を持ち歩けば良かったのだ。それも黄色い傘を。