アジアのごはん(65)ココナツオイル

森下ヒバリ

なんか太った‥。6月頃からお腹のまわりが妙にむっちりしてきた、と思ったらわき腹がもったりつまめるようにまでなった。まずい。身体の輪郭が広がっている。人生最大の太り具合だ。ジーンズも入らない。なぜこんなにむくむくとお腹のまわりに脂肪が? その原因の心当たりは一つしかなかった。4月からココナツオイルを熱心に食べ始めたのである。ココナツオイルは食べても太らないんじゃなかったのか? しかしどう考えてもこのお腹の脂肪はパクパク食べているココナツオイルの分だろう‥。

今年の2月タイで自然食品店に行った時、タイ人の友だちのプンちゃんが「これ、口に含んでぷくぷくすると歯と歯茎にすごくいいんだよ、身体にもすごくいいんだって」と棚から取って差し出したのはココナツオイル。「え〜そうなの?」と答えたものの、内心「ココナツオイルはたしか植物製オイルの中では飽和脂肪酸で身体にすごく悪いのに、何言ってんの」と思って聞き流していた。タイの自然系の店にココナツバージンオイルが置かれるようになったのは最近のことだが、それもあまり気に留めていなかった。

そしてタイから帰って4月、久しぶりに近所の「おからはうす」に遊びに行くと、店主の手塚さんが「ヒバリちゃん、ココナツオイルよ!すごいのよこれ!」とわたしの口にスプーンでその油を突っ込んだ。「え、あ〜、うん、おいしいね、これ」「すっごく体にいいんだって」「その話どこかで聞いた‥」

「ココナツオイルは身体によい」という話を二つの国で聞いたので、さすがにネットで調べてみると、なんとココナツオイルは身体に有害どころか、とても健康に良さそうであり、その愛用者たちの熱い語りもすごい。ココナツオイルが身体に悪いというのはウソだったのか?

さっそく「ココナツオイル健康法〜病気にならない・太らない・奇跡の万能油」(ブルース・ファイフ著 WAVE出版1400円)を入手して読んでいたら、ちょうど訪ねてきた友だちが「なにこの本!」「え?」「こんなに思いっきり付箋の着いた本初めて見た〜」と言う。いや、たしかに付箋だらけだ。ページを繰るたびに「これは!」とか「ええ、すごい」とかうめきながら重要と思われる個所に付箋を貼って行ったらほとんどのページに付箋がついてしまったのである。

ココナツオイルは飽和脂肪酸だが、飽和脂肪酸の中でも中鎖脂肪酸という脂肪で、この中鎖脂肪酸はたいへん酸化しにくく、フリーラジカルが生成されることが少なく、吸収されると体脂肪になりにくく、肝臓でそのままエネルギーに転換され(胆汁の必要なしで消化されるので、胆嚢を摘出した人でも食べられる)、コレステロールに影響を与えず、心臓病を防ぎ、血栓を溶かし、糖尿病を防ぎ、有害な細菌やウイルス、寄生虫を殺し、免疫を向上させてガンやそのほかの病気を予防する。肌にも髪にもよく、そのうえケトン体にも転換されるのでアルツハイマー病の予防にもなるという。とにかく奇跡の万能オイルらしいのだ。まだまだ効能はあるのだが、興味のある人はぜひ「ココナツオイル健康法」を読んでみてください。

ココナツオイルが身体に悪いというのは、じつはアメリカの大豆油業界のプロパガンダによる作り話であったというのも驚きだ。何気なく当たり前だと信じていることが、一部の利益のために造られたウソであるということを、いったい何度気づかされればいいのか。

しかし、すばらしい成分で健康に大変よい油であっても、不味ければどうしようもない。その点はいきなり口に突っ込んでくれた手塚さんのおかげでクリアー済みだ。ただ、あの甘い匂いはふつうの料理にはちょっと合わないだろう。彼女が試食させてくれたのはバージンココナツオイル。低温プレスのバージンオイルがもっとも体に良いのは間違いないが、これをそのまま薬みたいに食べるというのも、ちょっと。コーヒーや紅茶に入れるという方法もよく紹介されている。試してみたが、おいしいとは思えなかった。ここは今まで使っていた炒めものや揚げ物の調理用油をココナツオイルに置き換えるのが一番簡単で有効ではないか。

探してみると、ココウェルという会社で販売しているココナツオイルに、精製したタイプの匂いのないプレミアム・ココナツオイルというのがあった。精製といっても溶剤でなく炭と石灰でろ過しているので、安心である。それを取り寄せて使ってみると、クセがなくおいしいし、使いやすい。500ミリリットルで1000円、と同じココウェルのバージンオイルの三分の一のお値段。

まずは、調理用のオイルとして使ってみる。ココナツオイルは25℃前後で固まるが、固体の時は湯煎で溶かして広口瓶に保存し、スプーンですくって使う。保存は常温で問題ない。夏になって、常温で液体になったらオリーブオイルの壜などに入れて使うとよい。一日大人で大匙2杯を目安に摂る。

ココナツオイルを食べ始めて2週間、3週間‥。しょっちゅう起こっていた「あれ、あの名前なんて言ったっけ」現象があきらかに減った。アルツハイマーではなく年頃になると静かに進行してくる「名前が思い出せない」あれである。それが、「あの名前は‥‥ああ〇○」と少し考えると何か水の底からゆっくり浮き上がってくるような感じで名前が出てくるのだった。少し太ってきたので、あせってココナツオイルを食べる量を減らしたら、とたんに名前が出てこなくなった。おそるべしココナツオイル。

しかし、ココナツオイルは余分な体脂肪を減らす働きがあるというのに、なぜ太る? しみじみ考えてみると、オリーブオイルや菜種油と替えて使っているのだが、今まで何も塗っていなかった朝のパンにこってり塗り、炒めものにはいつもより多めにココナツオイルを垂らし、サラダにもたくさんかけ、とせっせと食べているのだからこれまでの油の摂取量よりかなり多くなっている。大匙2杯どころか3、4杯ぐらいは食べていたかも。

これまでの毎日の油分の摂取量が大匙2杯あったとも思えない。ココナツオイルの分はそのまま体脂肪にならなくても、エネルギーとして優先されて使われると、他のタンパク質や炭水化物からのエネルギーが余り、それが脂肪として蓄えられていく。要はいくら身体に良いと言っても、食べすぎだったのだ。年齢的にも代謝が落ちてきたことも影響があるかもしれない。そういえば、おいしいオリーブオイルを入手した時も何にでもかけて食べてすぐ太った記憶がある。油の代謝があまりよくない体質なのかも。

とにかく、たくさんココナツオイルを食べるなら、その分ほかのカロリーを減らすか、カロリーを消費するしかない。ええっどうする。さすがにこのわき腹はまずいだろう‥。まずはいつもの適正体重に戻らなくては。でも、食事を減らすダイエットなんてしたくない。

そこで、思いついたのがトウガラシ効果である。長い間のタイと日本との往復生活でワタクシは、トウガラシが代謝を上げ、たくさん食べ続けていると身体がシェイプされていくことは身をもって知っている。8月からひと月半タイに行っていたのに、今回ちっとも痩せなかったのは、あまり辛い料理を食べていなかったせいだろう。

ちょうど9月の終わりからタイのカラワンを招聘しての日本ツアーで、お世話係となっていて後半は引っ越したばかりのわが家で合宿だった。毎日タイなみに辛い料理を作ってカラワンたちに食べさせていた。これをこのまま続けてみようじゃないかっ。というわけで、カラワンたちが帰国しても、辛い料理を食べ続けている。いつも野菜炒めなどに入れるトウガラシの生潰し(ナムプリック)の量を小さじ山盛り1杯から2〜3杯に増やし、日本料理の時は一味を3倍ぐらいふりかけるようにしてみた。なるべく遠くまで歩いたり、ストレッチも心がける。もっと運動すればなおいいのだが‥。

カラワンツアーが終わって3週間たった今現在、わたしのわき腹はあまり掴めなくなった。すばらしいぞ、トウガラシ。

ココナツオイルは素晴らしいが、適正な量を食べることが大切なのだ。いくら油を食べても太らない体質の方は、どうぞ好きなだけお食べ下さい。おすすめの食べ方はやはり、いつも使っている油を精製タイプのココナツオイルに替え、いつものように使うことだ。揚げ油にはちょっと高価ではあるが、170度以下では酸化しにくいので最高の揚げ油となる。

精製タイプならとくにココナツオイルを使う特別な料理など考えなくてもいい。そして、朝のトーストのバターをバージンココナツオイル+塩に替える。乳製品と酸化したオイルが食卓からなくなることは、あなたの免疫にすばらしい効果があるはず。

ココナツミルクやココナツクリームも、もちろん中鎖脂肪酸が豊富なので、お菓子やタイカレーに使ってみてください。ココナツクリームのKARAというインドネシア産のものが大変おいしい。