アジアのごはん38 放射能時代の食生活

森下ヒバリ

恐れていたことが現実になってしまった。

子どものころ原爆の記録映画を観た。原爆の悲惨さと恐怖は幼かったわたしの胸に突き刺さり、今も抜けていない。きっと永遠に抜けないだろう。確か、小学校の低学年だったと思う。地域の公民館で巡回していたその記録映画の内容は、凄まじかった。その夜は眠れず、うなされた。そのとき以来、戦争と原子力には軽蔑しか持っていない。

後年、広島市の原爆資料館を見て、展示のソフトさに拍子抜けしたことを覚えている。これでは戦争がいかに愚かであるか、原爆が、放射能がいかに恐ろしいものであるか、まったく伝わらないと思った。

今の時代にあの映画を子どもたちに見せたら、親たちからクレームの嵐になるだろう。そんな時代だからこそ、こんな事故が起きてしまったともいえるのだが。とにかく、わたしには原発を推進する人々の頭の構造がまったく理解できない。目先の欲にしか働かない頭の構造なのか。そこまでして欲しいものとは、いったい何なのか?

福島原発事故で漏れた(今も漏れている)放射能は避難区域外では今すぐ影響がない量だ、と政府は繰り返し言う。しかし、チェルノブイリの被害者たちのほとんどが、数ヶ月から十数年たってからの発病、死亡である。チェルノブイリ事故で被曝した人たちの死亡者はまだまだ増えている最中なのだ。

日本でさえ、今までの原発労働者の白血病などの労災認定は年間被曝が100ミリシーベルトに達していなくても行われていて、100ミリシーベルト以下だから安全と言うわけではまったくない。だいたい、100ミリシーベルト、とか言われてもまったく想像できない。マイクロシーベルトとミリシーベルトと、シーベルトの単位のけたの違いもどれぐらい違うのか実感できない。

汚染水の海への流出も今後どのような影響が出るか、未知数だ。今回の事故では、たしかに一時に大量被曝した人は少ないかもしれないが、まき散らされた放射能は、自然界で濃縮される。しかも、まださらに水素爆発などが起こる可能性もかなり残っている。もう、放射性ヨウ素は半減したから大丈夫、と安心してもいられない。

こういう状況下で「食べる」ことはとても重要なことだと思う。眼に見えない放射能を安易に取り込んでしまうか、取り込まないか、またはどう排出するか、影響を抑えるかは食に大きく関わってくる。

原発事故は怖いし、いつか必ず起こるとは思っていたものの、やはり自分の備えはめちゃめちゃ甘かった。放射性ヨウ素についても、少しも理解していなかった。放射能が漏れたら、ヨード剤を飲まなければならないらしい、と漠然と思っていた。病院でもらったうがい薬にヨウ素がはいっているのを見て「あ、これをいざというときに飲めばいいんだな〜」と薬箱に入れてあったぐらいお馬鹿。うがい薬には消毒剤の成分がたくさん入っていて、飲んだらたいへん危険であります。

動物の体は常にヨードを貯めておこうとするので、足りない状態だと、放射性でも何でも取り込んでしまい、がんになってしまう。なので、放射性でないヨードでいつも甲状腺を満たしておく必要があるわけだ。子どもの甲状腺がんの発生率が高いが、大人でも放射性ヨードを貯め込むのがいいわけはない。だから、子どもも大人も汚染されていない海草を毎日食べましょう。

たしか政府が、ヨード剤を配るときに、海草は効果が無いから・・と言っていた。はあ?と思ったが、昆布を生でたくさん食べるとおなかの中で膨れて、胃が破裂する恐れがあるから、海草を食べろと言わないほうがいいと思ったのか。まあ、そういう人も出るかもしれないけど・・。生で食べるなと言えば済むこと。

長崎の原爆で被曝した秋月医師の食べ物の話は有名である。被曝直後に水を飲まなかったこと、その後、塩をたくさんつけた玄米のおにぎり、味噌汁という食生活を続けることで、爆心地に1・8キロという近い距離で被曝したにもかかわらず、医師をはじめスタッフたちは全員原爆症の症状が出なかったというものである。

玄米や味噌には毒素の排出能力があるのは確か。玄米を食べると腸の調子がよくなり、快適なお通じの毎日だから。味噌といっても、促成醸造の味噌では効果も薄い。酵素のたっぷり含まれた天然醸造の味噌がいい。でも、これは玄米と味噌を食べればいいのね、という話ではないだろう。秋月医師は、食が身体にとって大切だと考えていた。もっと食生活全体について考えることが必要なのだ。

毎日がん細胞は出来ているが、それを体内の免疫細胞が駆除していく。それが追いつかなくなると、がん細胞が増殖してがんになる。放射能はがん細胞を飛躍的に増やすので、駆除が追いつかないでがんになる人が多いのである。食品添加物というのも、がん細胞の増殖を加速させるから、なるべく添加物の少ない食べ物を取るほうがいい。白砂糖は造血細胞を壊すから、控えめにしたほうがいい。できるだけ免疫力が有効に働く環境をつくってやらなくては。

もちろん身体に放射性物質を取り込まないことが第一だが、微量の放射性物質がじわじわと拡散している状況では、どうすればいいのか。取り込んでしまったら、とにかくすばやく体外へ排出しなければならない。放射線は、放射性物質から放射されるが、身体にとどまることはない。その放射線を浴びることが害になる。とどまるのは放射性物質であるから、それを身体に入れない、すばやく出す。

放射性物質が肺に入ると出て行かないので、ずっと体内被曝をし続けることになる。はっと気づいて、改めて点検すると持っているマスクはみんな、横がスカスカだ。花粉やウイルス除去率99パーセントと書いてあっても、これでは意味がない・・。ほっぺたのところが密着するようなマスクを探さなくては。

安全な水や食べ物を食べる、といっても安全だという政府の発表はほんとうに信じられるのか、と不安になっている人が多いと思う。その答えは数年後にしか出ない。そしてその時に政府を非難したって遅いのである。いま確実に出来ることは、自分の免疫力を高めることだろう。

放射能に対する恐怖と不安は、いま日本をくまなく覆っている。たくさんの人が精神的に病んでいる。地震と津波のショックと悲しみに加えて終わりの見えない放射能の不安と恐怖。直接的に被害を受けた人も、そうでない人も間接的に身体と心に被害を受けている。

ああ、気分が重い。なかなか元気が出てこない。

こういうときに、心のこもったおいしいごはんを家族や友人と食べると、ああ、生きてるっていいな、おいしいな、うれしいなと思う。まだまだ色々しんどいけど、(簡単でもいいから)おいしいごはんを作ってあげよう、家族にも自分にも。

そして、非常持ち出しの非常食には、おいしい物を入れておこう。