チャック・ベリーの記憶

仲宗根浩

去年、電源すら入らなくなったカーステレオを換えてから六十年代から七十年代のロック、ポップス、リズム&ブルースで自分が持っている音源ばかり車の中で聴いている。フェイセズのチャック・ベリーの「メンフィス」のカヴァー曲が入っているアルバム「馬の耳に念仏」を聴いた翌日の早朝、ラジオでチャック・ベリーの訃報。その後ラジオでは追悼をいろいろやっていた。映画評論家の町山智弘が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で電話越しに主人公が演奏する「ジョニー・B・グッド」をチャック・ベリーに聞かせる、というくだりを映画として「やっちゃいけないこと」、と話していた。

ローリング・ストーンズのキース・リチャーズが制作した映画「ヘイル、ヘイル、ロックンロール」でチャック・ベリー、ボ・ディドリー、リトル・リチャードが白人のラジオのディスク・ジョッキー、アラン・フリードの悪口を言う場面があった。曲をラジオでかけてもらうリベートとして作曲者のひとりとしてクレジットされ著作権収入を得る。ロックを聴き始めた頃、家にビートルズの編集盤のジャケットの中にビートルズの盤ではなく何故かチャック・ベリーのベスト盤が入っていた。LP盤のソングライターのクレジットにアラン・フリードの名前が入っていたのを覚えている。チェスのプロデューサーでソングライター、ベーシストのウィリー・ディクソンの曲もレッド・ツェッペリンがカヴァーした際、クレジットは無かった。こういうのが黒人の音楽を白人が盗んだ、と言われた要因のひとつになったのだろう。

キース・リチャードが「ヘイル、ヘイル、ロックンロール」を制作するきっかけは六人目ストーンズ、イアン・スチュアートがチャック・ベリーのバンドのピアニスト、ジョニー・ジョンソンはまだプレイしている、と言われたのがきっかけだったか、キース・リチャーズのインタヴュー記事で読んだ記憶がある。イアン・スチュアートのピアノを初めて聴いたのはレッド・ツェッペリンのアルバムに入っていた「Boogie With Stu」というお遊びのような曲だがピアノは見事。

チャック・ベリーはバンドを持たずツアーに出て地元のバンドをバックに歌う。映画では地元バンドとしてバックをつとめたブルース・スプリングスティーンがうれしそうに話すシーンがとても無邪気だった。バンマスのキース・リチャーズがギターのリフに関して執拗にチャック・ベリーからダメだしをされる。ほとんどいじめに近かった。本番ではチャック・ベリーの気まぐれにはキチンと首を横に振る、キース・リチャードは楽曲をきちんと演奏し記録することに徹していた。

チャック・ベリーの音楽はカヴァー曲で知り、オリジナルにたどり着く。最初に聴いた「ジョニー・B・グッド」はジミ・ヘンドリックスであり一番にガツンときた「ロール・オヴァー・ベートーヴェン」はビートルズよりマウンテンのライヴ盤だった。