夜空に銃声、絶望のイラクでシリア難民と共に

さとうまき

イラクのサッカー熱は尋常ではない。4月23日、バルセロナとレアルマドリードの試合が行われるというので、シリア難民のスタッフのリームが、家に呼んでくれて一緒にTVを見ようという。斉藤くんもアーデル君も一緒に見に行った。

リームは、クルド系シリア難民で、2013年にシリアからイラク北部に一家で避難してきた。まだ、20代前半だが、結婚して、最初は主婦業もぎこちなかったが、最近は貫禄が出てきた。旦那の兄弟や親戚なども集まってご飯を食べてからTV観戦だ。よく知らない近所のシリア難民も集まり15人くらいになった。
リームたちは、ロナウドのいるレアルを応援。旦那の兄弟はメッシのいるバルセロナを応援という風にほぼ2分された。

点が入るごとに大騒ぎで、あまりサッカーを見ない斉藤くんは、彼らの反応に驚き、楽しんでいた。リームの旦那の兄弟は、趣味でサッカーチームを作っているらしく、トロフィーも3つくらい飾ってある。

最後に、メッシがロスタイムで逆転すると、もう大騒ぎ。飛び跳ねて、抱き合い、そしてトロフィーをつかむと、床に思いっきりぶつけて壊してしまった。
「やめなさい!」リームが怒鳴っている。何とも恐ろしい光景だ。壊されたトロフィーのかけらが誰かにあたると、そこから大ゲンカになるんだろうなと考えるとぞっとする。

外に出てみると、あちこちから銃声が聞こえ、まるで戦争がはじまったかのようだった。翌日のニュースでは、流れ弾にあたり9人がけがをしたという。

イラクやシリアは、戦争が長引き夢も希望もなく、元気がないと思われているが、たかがサッカー、されどサッカーで、他国の国内リーグにこれだけのエネルギーを注いでいるのだ。このことは喜ぶべきことかどうかはちょっと複雑だった。

数日後、銃を撃った人たちが数名逮捕されたというニュースが流れてきた。
きちんと逮捕したというのにも少々おどろきだ。新しい秩序ができるのだろうか?