多可乃母里(たかのもり)

時里二郎

  3

この子の屋敷は 里のいちばん高いところ
もうその先は里ではない
モリ というが だれも 
モリ とは くちにしない
モリ といえば モリが目を覚まして
タマ を獲られてしまう
だから 里の人が どうしても
モリ と言わねばならぬときは
モリのまえにタカノを付けて

タカノモリ
 
 
  4

モリの入り口は
トチやサワグルミやホオの
見上げるばかりの木が 空をおおう
その森の翳が届くか届かないところに
この子の棲まう離れがあって

この子ひとりで 森の瘴気を吸いこみ
チチのようなあたたかい息にかえる
けれども この子ひとりの息のちいささでは
大きなモリの瘴気をどうすることもできない