つむ

時里二郎

どこの山寺の 
ナツツバキの花の
帰り道か 
地に落ちた その浮きたつ白も
とおい記憶のうすやみにまぎれて

誰かの弔いだったかもしれない
寝覚めの幼い僧が はなしてしまったひものさきに
結わえられていたはずのことども

あるいは こんなはなしだったかもしれない
幼い僧の名を つむ と言った
人形だが ことばを話す
亡くなった幼児を忘れがたく
親はそのしあわせをほとけにゆだねて
幼い僧の人形に 黄なる僧衣を染めて仕立て 
その山寺にあずけたのである
三年は会うことが許されず
年季あけにと
山門を敲くと そんな幼僧はしらぬという
夢でもごらんになったかと

つむ つむよ と境内をさまよううち
見上げるばかりのナツツバキに 白い花の群れ咲いて
ふと まばゆいひかりの花を見つけたと思うや
足裏に はふっとした感触が 
感覚されない痛みの芯を突いた

見れば ナツツバキの躙られた花
親は つむなるらんと あたりの土ごと掬って てのひらにのせる
つむ つむよと ほおにすりつけて 泣きかなしめども
土によごれて潰れた白い花の応えるはずもなく
掬いとった土ごとの花を懐紙に包んで 
山寺を辞す

帰り道 述懐するに
山寺につむをあずけたときから
ほとけにつむのしあわせをゆだねたのではなかったかと
むしろ じんかいの世にあるものに触るるは つむのしあわせに障る
それが踏みにじったナツツバキの花であったと
うち萎れて 家にもどり 
懐紙のつむを供養しようと ふところを探れど 
懐紙はうすいままに 潰れた花も土も消えている
こはいかにと つぶさに見れば
ましろい紙片に ナツツバキの蕊(しべ)の粉(こ)の名残か
わずかに 黄なる沁みのうつりてあり

  名井島の小さなお話から