岬のさきの

時里二郎

岬のさきの帽子の小島
いちどわたったことがある
ゆめのなかで

舟ではわたれぬ島だから
夜に竿さし ゆめをこいで
ゆめのさきへ

ゆめのさきにも 岬があって
帽子の小島が見えている
いちどわたったことがあると
思い出した
ゆめのなかで

ゆめではわたれぬ島だから
うつつの舟を借りてゆく
舟にはひとり先客がいて
忘れた帽子を取りに行く
わたしは何しにゆくのだろう

岬のさきの帽子の小島
いちどわたったことがある
波に流され 見えなくなって
母の形見の夏帽子

岬のさきの帽子の小島
いちどわたったことがある
母にないしょと耳うちをして
わたしに似てる女の子

岬のさきの帽子の小島
波にゆられて夏帽子
あれは白い波の端(は)と
ひとりごちてながめやる

牡蠣殻(かきがら)白い岬の道は
きりもなく続いて
あとひとまたぎに
夢の切り岸

  -『名井島の雛歌』から