1958管啓次郎 ダム湖に沈む村を見下ろしながら 甘い水にまどろんでいた 太陽に初めてふれた日 顔をしかめてくしゃみをした 木々はそのまま燃えるように 秋の中を群れなして走ってゆく 獣たち鳥たちは人の世界をとりまき 空と地表をひとつにむすぶ 母の顔は覚えていない 偶然たどりついたその森が 逃れることのできない故郷になった (それから一度も訪れていないけれど) その年は火山がよく噴火した 東京バベルには美しい電波塔 チキンラーメンを誰が先に食べるかで 中学生たちは楽しく競い合った