家人が読みかけている『ジョン・ライドン新自伝』(2016年5月 シンコ―ミュージック)が部屋に転がっていたので、ふと手に取って、ところどころ読んでみるとなかなかおもしろい。
ジョン・ライドンはパンク・ロッカー。セックス・ピストルズ、PIL(パブリック・イメージ・リミテッド)のボーカリストとして世界中の若者に絶大な影響を与えた人だ。80年代はじめの彼は、不揃いに切った短い髪をくしゃっとさせて、アルチュール・ランボーみたいでかっこいい。まずこの風貌に参ってしまったのだと、グラビアページの彼を懐かしく眺める。
年齢相応に体格が良くなってしまった現在の彼も、やはり、ただ者ではない面構えで魅力的だ。若返り美容なんて絶対しないだろうなと思わせるところが良いし、いい年してツンツン立てた髪を緑と赤の2色に染めて堂々としているところはもっといい。そんな彼の写真を見ると、年をとっていく事なんてへっちゃらに思えて、励まされる。
風貌だけでなく、現在も彼は彼の音楽を奏でていて、2011年の夏と2013年の春の来日公演を見に行ったけれど、過去の栄光なんかにちっともしがみつかない円熟したロックを聴かせてくれて圧倒された。ジョン・ライドンは現在進行形で気になる人なのだ。
本の冒頭、献辞に「本書を正直さに捧げる」とある。世の中が強いてくるいろんな思い込みをはねのけて、自分に正直でいるのがパンクだ。ジョン・ライドンが「正直でいること」を何よりも大切にし、貫いていることが、自伝のなかのいろんなエピソードでわかる。人々が押し付けてくるイメージ、時には商売に利用されそうになる自分のイメージから自由になろうとする闘いの歴史が彼の自伝だ。「正直でいる」ためには、自分自身の心も注意深く眺めなければならない、ごまかしてはいけない。
ジョンはノーラというパートナーを見つけているのだけれど、彼女との事を書いた短いコラム「HUGS AND KISSES, BABY!(「ギュッとしてチュッだぜ、ベイビー」と訳されている)の部分がおもしろい。有名になったとたん、女の子が自分を見る眼が「うげえ、ナニあの隅っこにいる変なヤツ」から「あーら、ちょっとアナタ素敵じゃない!」に変わって、有名人と付き合いたい女の子が押し寄せてくる。でも、そんな刹那的な経験をいくら重ねても不毛だ、自分が本当に探し求めてたのはちゃんとした恋愛関係だということが、ノーラとの関係を築くなかでわかったと言う。
ちゃんとした恋愛がもたらす幸せというものについて、ジョンはこんな風に書く。「自分のありのままの姿を、欠点も何もかも含めて丸ごと受け止めてくれて、いかなる理由においても、自分に対して自分を恥じる気持ちにさせない、そんな相手だ。正しいパートナーであれば、自分に対する疑念を消し去る方法を教えてくれるんだよ」と。
ノーラとジョンの写真も何点か掲載されているが、2人とも素敵だ。好きな人を好きと言って堂々としている。女の子の人気を取ろうとパートナーの存在を隠したりしない、楽屋にひっこんでろとも言わない。そういえば、最近読んだ『すべてはALRIGHT』というRCサクセションの1985年の写真集に、仲井戸麗市のパートナーへのラブレターが載っていたのけれど、同じことを感じた。
本物のロッカーが教えてくれる恋愛は実に参考になる。