ヤン富田が品川の原美術館でコンサートを行ったので、出掛けて行った。より多くの観客が参加できるようにと、晴れた場合は中庭、雨の場合はホールで開催というしゃれた趣向だった。
8月最後の土曜日は幸運にも良いお天気で、美術館の中庭の芝生に寝そべりながら、よく晴れた夏の1日がきれいに暮れてゆき、やがて夜空に星が光るのを眺めながら音楽を聴いた。
閉館して明かりの消えた美術館。年代物の樫の木。どこか遠くから聞こえてくるようなスティールパンの音。女性2人のつぶやくようなハーモーニー。ビーチボーイズのカバー。キャンプに来ているような格好で演奏を楽しんでいる人たち。贅沢にもわずかな観客たち。隣の人が飲んでいたお酒の、オレンジの香りごと、その一夜の時間まるごとが、ヤン富田のパフォーマンスだったということなのだろう。
そして、別のある日、世田谷文学館で開催している「ビーマイベイビー」展を見に行った。松任谷由実、Mr.Children、フリッパーズ・ギター、ピチカート・ファイブ、エレファントカシマシなどのアートディレクター、信藤三雄(しんどうみつお)の作品を一堂に集めた展覧会。彼が作成したCDジャケット、ポスター、写真、映像、書などが展示されていた。ヤン富田のパフォーマンスにゲスト出演していた小山田圭吾の大きなパネルもあって、かっこよかった。
レコードリリースを告知するポスターが一面に貼られたコーナーは圧巻だった。彼らのヒットに信藤のアートワークが貢献したことは確かだ。信藤のポスターによってかっこよく切り取られた人たちを見る。
信藤は、本人もうまく言えなかったことをわかりやすくデザインして見せてくれているのだ。「あなたが好きで行きたいのはこっちの方?」「そうそうそう」そんな感じだ。そして「あなたが目指しているもの」、それはバンドマンの彼が、かつて憧れた何かだ。古いヨーロッパ映画、60年代ロック風、キューブリックの映画のような清潔な未来。信藤のアートワークは、かつて憧れた何かを再現することに成功している。そんなパッケージに包まれて届けられた音楽が、かつて憧れた作品に引けをとらない水準になってきたところに、信藤三雄の成功もあったのではないかと思う。看板にいつわりありでは、目利きのひとたちに支持されないものね。
「ビーマイべイビー」展は9月17日まで。世田谷文学館。