ダンディライオン

さとうまき

昨年の7月にモスルが開放された。そんな国がかつて存在したのだろうか。イスラム国の指導者といわれるバグダーディが本当にカリスマ性のある指導者としてのメッセージを発していたのだろうか。2014年にモスルで、イスラム国の建国宣言をしたくらいで、そのあと表に出てしゃべっているのを見たことがない。ただともかく、イスラム国という国は残虐な国だというイメージが残像のようにのこるだけだ。

アルビルの小児がん病院の庭には、バラの花がきれいに植え込んであり、患者や家族は、ちょっと庭でリラックスしている。それに比べて、モスルの病院は、ISがいなくなって一年以上たつのに、花は咲いていなかった。うそ。庭に咲いていたのは、タンポポだけだった。ちょっとがっかり。

モスルには、絵の上手ながんの女の子がいるという。彼女に書いてもらう花は、タンポポしかなかったのだ。

ラワン9歳。お父さんの名前が、サダム・フセイン。そのために、表に出て仕事ができないのだという。イスラム国でもサダム・フセインは嫌われていたようだ。お母さんは、アルビルで娘の検査をしたのだが、がんのタイプの診断が難しくて、結局バグダッドに行ったという。それでも判定が付かず、ヨルダンに行くしかないというので、お金を出してあげることにした。

摘んできたタンポポはしなび始めていたが、ベッドのラワンは一生懸命に描いてくれていた。タンポポは英語で、ダンディライオンというらしい。ユーミンの歌で確かそんなタイトルがあり、僕は、そのころ、ダンディなライオンのようなおっさんのことかと思っていた。ずーっと思っていた。日本語のタンポポというかわいらしい響きとずいぶん違う。違いすぎるから、タンポポのことをダンディライオンというのは許せないものがある。

「きみはダンディライオン 傷ついた日々は 彼に出逢うための そうよ 運命が用意してくれた 大切なレッスン 今 素敵なレディになる 」というフレーズが当時は何のことやらよくわからなかった。明日のジョーが、力石に出逢うために傷ついた日々が運命が用意してくれたレッスン。素敵なレディになる? ん? 女子プロか? 違う。白木葉子がジョーのことを歌っているんだよ。というような、解釈を当時の僕がしていたかというとそれは嘘だ。しかし、イメージは、大体そんな感じだった。

ラワンのタンポポの絵と、そして綿毛の絵でチョコのパッケージができた。今までは、「~いのちの花~僕たちははかなくない」というキャッチコピーで小児がんの子ども達に生花を書いてもらってきた。今年は、たとえ枯れても、タンポポは種を飛ばして、どこでも咲いてくれる、そんな思いを込めているとスタッフに説明すると、翌日「たんぽぽ~花は枯れても種は世界に広がり、命はつながる」というコピーをスタッフが作ってきた。なんだか演歌っぽいぞ!「ぼろは着てても、心は錦」的な。

というわけで、空前のタンポポブームがきそうな気配を予想して、タンポポコーヒーを買いに行った。もうずいぶん前に自然食食堂が各地にでき始めたころ飲んだような気がする。タンポポの根っこを焙煎しているらしい。パッケージには、ダンデリオンとカタカナで書かれている。ダンデリオンは、悪くないひびき!