麗蘭(れいらん)は、RCサクセションの仲井戸”チャボ”麗市とザ・ストリートスライダーズの土屋“蘭丸”公平が結成したロック・バンドだ。麗市(れいち)と蘭丸で「れいらん」。日本が誇る2人のロックギタリストは雑誌の対談で出逢い、ちょっとしたセッションをする予定が新曲を作り、ツアーを回り、新しいバンドとなって、30年の年月が流れた。ベースに早川岳晴、ドラムにジャラを迎え、時々集まっては麗蘭としての音楽を奏でる。それまでの時間にメンバーそれぞれが聞いた音楽、奏でてきた音楽が麗蘭に注ぎ込まれて成熟したサウンドを形作っている。曲をいっしょに作るという事は、当たり障りのない付き合いを超えてお互いの中に入り込まなければならない。仲井戸麗市が最初のセッションの時から持っていたその意志を土屋公平も受けて、麗蘭がこんなにも続いたことは幸福なことだと思う。麗蘭は2人の成長(成熟)の物語でもあるのだ。スタジオアルバムもミニアルバムを含めて4枚発表されている。
京都の古い蔵を改装した老舗のライブハウス、磔磔(たくたく)での年末ライブは恒例で、ファンにとってはこれが無ければ年が越せないという特別なライブだった。2020年のコロナ以来できなかったが、今年やっと4年振りに開催されることになった。こんなに嬉しいことはない。年の瀬に新幹線に乗って出かけてきた。
まだ、コロナが完全に終結したわけではないから、以前のようにギューギュー詰めというわけにはいかない。椅子を入れて少し間隔を取って、入場数は減らしての開催だったけれど、磔磔での麗蘭のライブはやはり特別な感慨があった。磔磔では海外の有名アーティストもたくさんライブをしている。100年たつ蔵にはロックやリズム&ブルースの良い演奏をたくさん聞いてきた音楽の神様が住んでいるから、音が特別に良いのだ。
チャボが「新旧取り交ぜてやるよー」と言っていたけれど、今年の新曲が5曲も演奏されたことは頼もしくも嬉しいことだった。そして2つも戦争が起こっている今の時代が、麗蘭の音楽にも大きく影響している。湾岸戦争の時に作ったというコメントで演奏された「悲惨な戦争」は、2023年版アレンジになっていて鮮烈な印象を残した。素朴に平和を願う心、それはロックに教えてもらったし、ロックを聴くこと(体感すること)でその気持ちは確信に変わる。麗蘭の今年の演奏を聴いていてそんなことを思った。
ビートルズの歌詞がちりばめられた「ゲット・バック」という曲では「さあ長い夜に嘆くのはもう終わりにして、俺といっしょに口ずさもう、いつかのあのメロディー」と歌われる。「帰ろう、今夜、いかしてる音楽へ」と。厚みのある肯定的なギターサウンドが、理屈ではなく、体感として大切なものを確信させてくれる。彼らの音楽にも流れ込んでいるビートルズのスピリットも合わさって、揺るがない強さをもたらせてくれる。平気で人を傷つけたり、不正を働いたりする人間にならないようにつなぎとめておいてくれる。まともな人間でいるためにロックを、麗蘭の音楽を聴いているのだと言ったら笑われてしまうだろうか。1年の終わりに、磔磔で麗蘭を聴く理由、聴きたいと思う理由はこの辺にあるようだ。恒例ではあるけれど、前回をなぞるような事は決してしない彼らの演奏を、これからも可能な限り聴きに行きたいと思う。