KODAMA AND THE DUB STATION BAND のこと

若松恵子

仕事終わりに、KODAMA AND THE DUB STATION BAND(こだま アンド ザ ダブ ステーション バンド)のライブに出かけている。バンドのホームグランドである立川の小さなライブハウス、AAカンパニーで、大人のライブは仕事が終わった後に行けるように20時から始まる。平日の夜に出かけて行くのをどうしようかと毎回迷うのだけれど、こだま和文のトランペットの音を聞いた途端、やっぱり出かけてきて良かったと、毎回思うのだ。

ジャマイカのレゲエ歌手、マックス・ロメオが来日した時に、西新宿の高層ビルでライブが開かれた。ディスクユニオンで配布されていたタダ券をもらって出かけたライブの前座に登場したのがミュートビートだった。高層ビルの谷間の広場の階段に座って、何の期待もなく聴いた、こだま和文のトランペットの音に魅了された。1985年、高層ビルも新しかった40年も昔の話だ。

今もなお、彼のトランペットの第一声を受け止めた途端に感じるものは、あの時と同じだ。息が奏でる音楽には、歌と同じようにその人の人柄がそのまま聞こえる。そして、彼が選んだレゲエは抵抗の音楽なのだ。自分を、人間を抑圧してくるものに対する抵抗。負けない気持ち。それはダブステーションバンドのサウンドになって私を励ます。

2015年からのバンドメンバーは、こだま和文(Tp/Vo)、HAKASE-SUN(Key)、森俊也(Dr)、コウチ(B)、AKIHIRO(G)、そして2018年にトロンボーンを吹く歌姫ARIWAが加わった。ベースのコウチが「僕自身、こだまさんと演奏できることが本当にうれしい」とライブで語っていた。演奏すること自体が、まず、メンバーの喜びであり、それが伝わってくるライブなのだ。

コロナが来て自由にライブが開けなくなった時も、検温をして、換気のための休憩をはさんでライブは続けられた。今、戦争が2つも起こって、やりきれない気持ちのなかでも、あきらめないでまっすぐに立って音楽を、こういう時にこそと選ばれた曲が演奏されてきた。こだま和文も、トランペットを吹くように歌をうたう事が増えた。じゃがたらの江戸アケミが残した「タンゴ」を今の時代に歌い継いでいる。

10月4日に、最新アルバム『cover曲集 ともしび』がリリースされた。
「花はどこへ行った」、「Is This Love」、「FLY ME TO THE MOON」、「MOON RIVER」、「WHAT A WONDERFUL WORLD」ライブで演奏されてきた珠玉のカバー曲が収録されている。もちろん「タンゴ」も。ミュートビート時代の「EVERYDAY」も再演されていて、青空に突き抜けるような、清々しいトランペットを聴くことができる。

10月25日には、渋谷のライブハウスWWWで単独ライブが行われた。昔シネマライズという映画館だったところだ。久しぶりの渋谷でのライブにはお客さんがたくさん集まっていて嬉しかった。昔からのこだまさんのファンが集まったのだと思う。

「人の営みは毎日繰り替えせど、一時として同じ日常はない。いわば「日常のヴァージョン」を繰り返す。『cover曲集 ともしび』は、「日常のヴァージョン」に寄り添う力強いサウンドトラックだ。個人の様々な記憶とともにある楽曲の旋律で、まさに「日常のヴァージョン」を“ともしび”として彩り、新たなヴァージョンを作り出していく。おそらくそれは、この先もずっとこの音楽に触れる者にもたらされる「灯」であろう」

そのライブのお知らせのチラシに、河村祐介が書いていて、その通りだと思った。