音色1

三橋圭介

音楽をきくとき、音色は最も大切な要素だろう。ただ音色という言葉は難しい。ある人が音色と呼んでいるものと自分が音色と呼んでいるものが同じとは限らない。

一般的にはヴァイオリンの音色、ピアノの音色などともういが、ピアノの場合なら、「音色を変化させる」という言葉のなかに、「タッチを変える」という意味合いが込められることがある。タッチを変えると音の質感は変わる(アタックの音が関係しているだろう)。いつも使っているクラヴィノーヴァはサンプリングされた音で、理論的にはその大小の変化しかない。しかしタッチによって(あるいは曲想の変化によって)、音色が変わったと印象付けることができる。これはある種の「錯覚」で、多くのヨーロッパ芸術はこの「錯覚」をたくみに使う。

ピアノも技術によって音のムラを無くして均質化し、クラヴィノーヴァに接近していく。「あの人のピアノは多彩な音色で」というとき、大方の場合この種の「錯覚」であることが多い。

逆に考えるなら、均質化した技術ではなく、不均質な技術による演奏のほうが音色が豊かということになる。ピアノではないが、スーコフスキーの弾くケージ。たとえば、「チープ・イミテーション」はおもしろい。なめらかさや流暢さからほど遠く、一般的な演奏基準からすれば下手に聞こえる。ヴァイオリンの音はムラだが、だからこそとても豊かで複雑に響く。下手だからではなく、巧い人が音色のためにあえてそうやっている。これは決して「錯覚」などではない。