ダイヤモンドの指輪

平野公子

 あのさぁ、ミエさんてどこから来たの。
たしか平野甲賀が亡くなる半年前頃のことだろうか、この頃は変な質問が時々飛んできていた。もともと天然気質の上にリクツのない人だから、返事もそんなに筋道正しく立派なのを待っているわけではない。
 水道の蛇口ひねるとミエさん出てきたのかも、と軽口叩きながら、そうだよねぇ、ミエさんにはみーーーんな知らんうちにお世話になっているよね。
 そうなんだよ、俺たち馬鹿だからさぁ、すぐ飲んだり騒いだろ大騒ぎしたり飽きちゃったりさ、でもミエがずっとニヤニヤしながらやっててくれたんだよね。
 そうだよ、義務じゃなくてね、あんたらの馬鹿さ加減も面白かったんじゃない。
 なんかさ、お礼しなくちゃいけないんじゃない。
 え、そうなの。なにをあげたいの?
 指輪とかさぁ。
 そうだね、どうせだったらダイヤモンドかね。
甲賀さんにしては珍しい思いやりだった。言葉にするのが珍しいという意味ね。
なのでこの日のやりとりがおかしいこともあったけど、忘れられない。

ダイヤモンドの指輪代わりにようやく八巻美恵の本ができた。
八巻美恵さんの本を作ろう、という声は数十年前からあちこちから聞かされてきた。
だが一向に出ないではないか、それではhorobooksで、と取り組み始めて数ヶ月、
ようやく不思議な本となりました。
美恵さんに似合った優しく可愛い本に仕上げてくれたのは、デザイナーの吉良幸子と絵の木村さくらの若者たちです。
二人とも早くから美恵さんの文章を読んでくれていた。大好きになってくれていた。
ありがとう。
編集の賀内さん、感想文を書いていただいた斎藤真理子さんに深く感謝もうしあげます。

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