島便り(3)

平野公子

島へきてから早くも4ヶ月。二度ほど体調を崩した。

喘息持ちなのにお酒は飲むわ、タバコは吸うわで、ときどき気管支炎もっとすすむと肺炎になってしまうクセがあるのだ。クセだからちょっと気を抜くと、つまり身体からのSOSを無視するとすぐに首をもたげてくる。寝ていると夜中にドキドキが止まらない、息が苦しくなってくる、さすがに少しだけ絶望する。

次の朝、歩いて30分はかかる、タクシーだと5分の島の病院へ初めて行ってみることにした。病院といえども初めてのところ行くのはウキウキする。タクシーの運転手さんに行き先を嬉しそうに言ってしまった。

地帯にひとつしかない三階建ての病院は一階のワンフロアーに全科も検査設備も全てがはいっていて、グルッと見渡せばまるっとシステムが解る、これには感心した。イヤもっと大掛かりな病院が安心な人もいるのでしょうが、内科で順番を待つその後ろの小児科のソファーから赤ん坊やこどもの喚き泣きが絶え間なくあるという雑駁感が、私にはなんとも嬉しい病院の正しい待ち合い室なのだ。ジャンボフェリーみたいなタタミ敷きのスペースもあり、数人のおじさんがゴロンゴロンとしている。レントゲンとCTの検査結果がでるまで、わたしも混じってゴロンとしてみた。

内科ソファーの隣にいた車イスのおばあさんは娘さん(といってもかなり年配)に連れられてきたようで、娘さんに足をずっとさすられている。おとなしくしている横顔がとても美しい。前方からやはり娘さんに連れられた車イスのおばあさん登場、車イスどうし向き合うと嬉しそうにまくしたてる。

やぁ、あんた元気でいたぁ、若いなぁ、いくつになったぁ、そうけ89かぁ、きれいやなぁ、あんた、かわいいなぁ。
わたし94になったんよ、あぁ、あそこんとこのおばぁは104だって、がんばらにゃぁ、元気でいてやぁ、また会おうなぁ。
あんたきれいやわぁ、髪よおおけあって、いいなぁ、かわいいなぁ。

ふたりともそれはそれはかわいらしい老婆でありました。

島へ来てから気がついたのはオヤジさんたちはともかく、おばあさんたちになんだか美人が多いのだ。そしていきなり話しかける人がほとんどなのも共通点。初対面でも、病院の待ち合い室で道でバス停でいきなり話しかけてくる。子どもの頃にお母さんが亡くなった、とか。自分の妹は岡山に嫁にいった、とか。去年大阪で手術した、とか。孫が結婚式もしないでふたりして暮らしてる、とか。お母さんが17のときにいなくなった、とかとか。どうやら亭主の話やお天気の話はなしで、身の上話にいっきょに突入なのだ。本人がいい年いってるのにみな自分のお母さんお父さんのことが多い。

そうですかぁ、大変でしたねぇ、お母さんえらかった、などとついあいづちうつものだからはなしは長い長い。で、こんな話きいていもろうてご縁やなぁ、で終了する。一瞬、抱きしめてあげようかと思うが、さすがにやめておく。

とここまで書いて思いだしたぞ。わたしの母親もその母親も、自分の身の上話しをこれでもかこれでもかと、小さな私に暇さえあれば話していたことを。半分くらいホントで半分はかなり脚色されていたと思う。だってまるで新派の母もの演題を聴かされているようだったから。そうか、老婆たちの身の上ばなし好きは、島に限らないのだね。