ソーシャルディスタンスじいさん

さとうまき

半年通った職業訓練が明日で終わりになる。そもそも、いくつかの学校の試験を受けたのだが、コロナのために、窓は開けっぱなしで寒く、試験官との距離は遠く、しかもマスクをしているからなおさら聞き取りにくい。開校は2週間くらい遅れた。皆マスクをかけているし、話かけづらい雰囲気を醸し出してた。

セクハラ対策なのか、席は男女離れて座らされた。慣れてくると女子同士はよくしゃべる。しかし、男子は一言もしゃべらない。いつしか、男子は空気となり、女子は全く男子の存在など気にせずおしゃべりをしていた。彼氏と暮らしていているとか、ネコを飼っているとか。。。彼氏の話ばかりする女子のおかげで大体彼氏の性格までも容易に想像できるようになった。

この距離は、コロナによってもたらされたものなのだろうか? 僕の場合は、さらに年齢的な距離もあり、そもそも話に入っていけない。自分では若いつもりであったが、白髪が最近増えたと痛感。

就職してこれから社会に羽ばたこうとしている若者を叱咤激励する先生の言葉には、最初から僕は対象外だ。「若いうちだけですからね!しっかり学んでください!若いうちは、やり直し効きますから!」
思わず苦笑いする。「カルチャースクールと勘違いして、WEBを習いに来たじいさん」だとみられているのだろう。

それにしても、男子はしゃべらない。全くしゃべらない男子が大半だ。その中の一人と、帰りが一緒になり、話しかけてみたら普通にしゃべってくれた。職業訓練は2回目らしく、前回は、みんなで酒を飲みにいったりしたらしい。やはり、コロナの影響なのだろう。そういえば、最初のころは男子も 二言、三言くらいはしゃべっていた気もする。次第に男子たちはしゃべるきっかけを失っていった。

職業訓練校は、厚労省からの助成金で成り立ち、生徒をともかく就職させなくてはいけないから必死だ。卒業しても、毎週就職相談を受けなければならないそうだ。就職担当の職員との面接で、
「佐藤さんの場合は、相談はもういいですよね? なんか起業されるとかおっしゃってましたよね?」
「(何を言うか!)老人でも働けるいい仕事があれば、働きたいんですけど」
実際、この半年で稼いだお金は、3万円ちょっとである。本を書くという話もあるが、ベストセラーになるとも思えないし。
「いやいや、起業されるっておっしゃってましたよ? 厚労省には、起業ということで提出しておきますので。ぜひそちらで頑張っていただければよろしいかと」
「そりゃ、起業したいって言いましたけどね、、、、、そんな人生甘くないですよ」
「毎週、遠い距離をこちらに来られるのも大変ですし、私たちも大変なんで、就職指導も終わりということで」

どんどん息が苦しくなり、マスクもずれてくる。僕はそのたびにマスクを直しながら、距離を感じていた。

結局、この半年は何だったのか。「勘違いしたカルチャースクール」で終わってしまうのか。WEBを自由に操り、世界制覇して、世界の格差を埋めていくという野望はどこへ行ったのだ? 今の俺は、磁石のように、社会に近づこうとしても、引き離される。俺は世界から隔離されている!

SDGsとは、ソーシャルディスタンスじいさんのことで、みんなが楽しんでいるところには近寄ってはならないのである。今はそういう磁場が働いているから、いてもしかたがない。

SDGsの本当の意味は、2015年9月25日~27日、ニューヨーク国連本部において、「国連持続可能な開発サミット」が開催され、「私たちの世界を変革する:持続可能な開発のための2030 アジェンダ」が採択されました。このアジェンダは、人間、地球及び繁栄のための行動計画として、宣言及び目標を掲げました。この目標が、ミレニアム開発目標(MDGs)の後継であり、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(SDGs)」です。念のため。