愛とお金は奪い取るもの

さとうまき

今回の旅の目的は、わずかな遺産が私にも巡ってきたので、そんなものは役に立つように使ってやれと思いアレッポの小児がんの子どもの治療費と、最近しつこくお金をせがんでくるダラアのマフムードの手術代に当てるつもりでいた。

マフムードは、24歳になっている。13歳の時にシリア内戦で左腕を無くし、内臓も破裂すると言う重症を負った。彼は流暢な英語で 度々手術が必要だと言ってお金をせがんでくることがあった。多分翻訳ソフトを使ってるのだが返信が早い。いつの間にか彼は大人になり生き延びる術を身につけていたのだ。ともかくしつこくお金を要求してくる。根負けして送金しても金を受け取っても連絡してこない。だからそういう態度には少しイラつく。

シリア人からも彼に対する悪い噂が聞こえてきた。麻薬に手を出していると言う。私も相手にしないようにしていた。いいところもあって、近所のガンの女の子のために人肌脱ごうとしてお金を要求してきた。ところがマフムードは、女の子をバスに乗せてダマスカスの病院に連れて行き、タクシーに乗ったことにして差額をポケットに入れてしまったのだ。僕はもうウンザリしてしまった。

今度は、お腹に腫瘍ができた。検査したので150ドル送れと言う。放って置いたら検査結果に関しては何も連絡はなく、いつの間にか足が腐ってきた手術代が必要だと言う。僕はもう彼とのやりとりにはウンザリしていたが、腐ってきた足の写真を見てさすがに可愛そうになり,.シリアに行って彼をとっ捕まえてその場で病院に連れて行って足の手術をさせて医者に直接お金を渡そうと考えたのだった。

ところが、こともあろうに僕はイスタンブールでスリにあってしまい全財産を無くしてしまった。シリアに行く金もなくなり帰国するしかなかったのだ。マフムードはしつこく連絡してくる。
「ごめんね。スリにあって全財産取られちゃったんだ。君に払う金はないんだ」
「それは、大変だったね。でも僕は150ドル欲しいんだ。いつ送ってくれる?」

無視するとしばらくたって、「元気かい」とメッセージが入る。
「今度は母が脳梗塞で入院して大変なんだよ」
「それは大変だ! 君のお母さんが早く良くなるように。ところで僕は手術しなければいけないので150ドルはいつ送ってくれるんだい」
こいつなんてやつなんだろう。メッセージのたびに必ず添付してくる足の写真は日増しに腐ってきている。ここまで酷いんなら近所のシリア人が少しづつカンパすれば大した金額じゃないのになんで誰も彼を助けないんだろう。謎は深まるばかりだ。

ともかく私は一文なしになってしまったので、俺の金を盗んだ奴がどこかでマフムードのことを聞きつけて手術代を出してあげて欲しいものだ。