時の間とことのあいだの

北村周一

はじまりは点描にしてまたひとつ見るよりはやく落ちてくる雨

点描はことのはじまりあわくして絵ふでのさきにともす眼差し

ぽつりまたぽつりとひらくつかの間を雨と呼びあう窓べの時間

ひぐれのち雨の気配はカンヴァスにありていろ濃くたわむ空間
 
 
ひとりごとうつし出すごと人かげは窓べにありて雨待つごとし

日のゆうべ絵を描くまでのときのまを映しだすごと裏窓はあり

愁いつつ外の面みやれば日の昏れを駆け寄りきたる雨という声

ふかぶかと窓のめぐりに夕かげはくだり来たれり雨呼ぶごとも
 
 
なにごとか思い出すごと日は落ちて雨の匂いにしずむまなざし

黒い雨を降らせることもあるらしき雲にまぎれて浮かぶ灰いろ

さまざまのいろの雨降る唐突をそらに見上げて逃げまどう日よ

空間にほつりほつりとふる雨のかげしろくしてたちまちに消ゆ
 
 
線描はときのはじまりまたひとつ追いつ追われつ絵筆に乗せて

終わりへの兆しもとめて過ぎゆきは線となりつつこの世を繋ぐ

絵ふで手に問いつ問われつかさねゆく線の数かず筆触ともいう

限りある過ぎゆきにしていっぽんの線の終わりを絵筆にむすぶ
 
 
時の間に隠れみえする線描の 線のかずだけ時雨ふる雨

雨淡き圧もてひとつまたひとつ水のおもてにひらく点描

みずの面に雨の滴のかげりたち 線から点へ点から円に

空間はそらの広さを省みて恥じ入るごとも雨をうらやむ
 
 
みたされしものから順にこぼれ出す雨という名の後さきおもう

塗りのこしにわかに失せて雨音の変わりゆくみゆ しろき雨脚

絵は音に音は絵となるひとときをうたい出したり雨垂れのごと

ひとすじの雨の奥行きてのひらに包まんごともデッサンをとる
 
 
描線を雨に見立てて仕上げゆく 彫り師の腕のみせどころ見ん

不意の雨にさやぎ立ちたる充実は摺り師の腕のみせどころなり

夜の灯の明りもとめてしぐれ降る雨のめぐりに浮かぶみち行き

離れ見ることの大事を説くように窓辺はありぬゆう暮れいろの
 
 
ちちいろの雨降るなかに差し出せる中指はけさ突きゆびしたて

時の間とことのあいだのつなぎ目を労るごともハミガキするも

重力のおもし解かれてすみやかにそらに閉じゆくひとすじの雨

くだり来てかなた遠のくひとすじの雨とは蓋しヒカリのうつゝ