イラクの貧困

さとうまき

クリスマスイブに日本をたつことになった。悲しいことに日本人が年末年始で休んでいる時くらいでないとなかなか現場にいけないのだ。深夜便でパリに向かう。飛んでいる間にクリスマスがやってくるわけだから、飛行機の座席に靴下でもぶら下げておくと何かいいことがあるかもしれない。こんな日に飛行機に乗る親子は、子どもにどのようにサンタクロースを説明しているのだろうか? 第一飛行機には煙突なんてないわけだし。窓の外にはトナカイに乗ったサンタクロースが大忙しで働いている。

実は前の日に財布を落としてしまった。散々なクリスマスになってしまったのだ。そうなると前向きに考えるしかない。財布を拾った人はとても貧しくて、借金取りに追われて、一家心中しようとしていたのだとすれば、私は彼らの命を救ったのである。もっとも、それほどお金が入っていたわけではないのだが。しかも、海外で連絡が取れるようにと携帯を新しく買い換えなくてはならない。年末に痛い出費が重なった。

パリに早朝に到着。携帯のスイッチを入れると着信記録が残っている。かけなおすと、世田谷警察だった。財布が出てきたのである。サンタクロースのプレゼントに違いない。

クリスマスイブには、靴下に携帯電話を入れておくのがいい。素敵なメッセージがあなたに届きます。セキュリティを考えたら、夜な夜な人の家に忍び込むのを生業とするサンタクロースは、テロリストと間違えられないとも限らないのである。故にサンタクロースは大忙しで、パソコンからメッセージと暗証番号を配信。携帯電話で暗証番号を受け取った子どもたちはデパートで、商品に交換? うーん、やっぱりこれではあまりにも夢がないなあ。

それはともかく、この財布、実は買ってからなくすのは今回で3回目。そのたびに出てきた。今回出てこなかったら、厄介な財布になっていたが、出てきたということは、開運の財布に違いない。戻ってきたお金は、UNICEFにでも寄付するか? 待てよ、UNICEFに寄付したところであんまりありがたがられないだろうし、むしろUNHCRとの付き合いもあるしなあ、募金じゃつまらないから、やっぱりチャリティコンサート? それともJIM-NETのチョコ募金をしないと怒られるかなあ! お金があるということは楽しいことだ。

飛行機を乗り継いでアンマンに到着。イラク難民を早速訪問した。最近では、ヨルダン政府が、イラク人の入国を制限している。金持ちのイラク人はビザが降りるようだが、貧乏なイラク人にはビザがおりなくなった。でも例外は、治療のための滞在である。しかし、治療費を工面するのも大変、物価の高いアンマンでは、生活するにもままならぬ。そこで、JIM-NETが内職を彼らに提供することにした。バレンタインのチョコレートを入れる布袋を彼らに作ってもらい、買い取るというわけだ。2000枚を5家族ぐらいにお願いしている。早速、ちゃんと彼らが働いているか様子を見に行くことにした。間もなくバレンタインデー、納期が迫っている。

アンマンの郊外。アパートの入り口のスペースを部屋にして住んでいる一家。父はいない。55歳の母親と30を過ぎた3姉妹が暮らす。姉妹は、3人とも湾岸戦争後に奇病にかかり、体が麻痺し始めた。歩くことが出来ずに車椅子の生活を送る。狭い部屋に車椅子が3台も置かれているのだ。この娘たちは、お土産としてのビーズ細工や、ハート型の小さなクッションに文字をいれたり、ろうそくを作ったりして生計を営んでいる。以前は母親が、売りに外に出ていたが、娘たちの症状が悪化してゆき、一人で水を飲むことすら出来なくなったので、家でたまにそういった小物を買いに来るビジネスマンを待つのみだ。観光客は、得てして買い叩くから、そういった商品はあまり売れるものでもない。娘たちは、手にも麻痺が始まっているので、針仕事は出来ずに、母さんを手伝っている。この母さんは、裁縫が得意でさくさくとJIM-NETの注文した袋を仕上げていった。

多くのイラク難民たちは、ヨルダン政府が働くことを禁止していることを理由に働きたがらないで、援助ばかりを求めてくる。そして、結構贅沢な生活をしている。しかし、私は、いくつかの、貧しい家族たちが、一生懸命働いて、質素に生きている姿も目の当たりにしてきた。街中で座り込んでタバコ、ライターとか、綿棒を売っているおばさんたち。多くのイラク人は、そういった仕事をバカにするけれど、やっぱり生きていこうとする姿は美しいと思う。

なくした財布に入っていたお金を思い出した。そのお金で、今回は、3姉妹の作ったお土産をたくさん買って帰ろうと思う。

2008年、よい年でありますように。
アンマンより愛を込めて

病人を抱えるイラク難民の家族が内職として作ってくれたかわいい布袋は、こちらをご覧ください。
http://www.jim-net.net/