太陽の布団

さとうまき

今日は、久しぶりに晴れた日曜日だ。ふかふかの布団が心地よい眠りをくれる。布団を干すことが、ここまで気持ちいいのかと、改めて思う。いつまでも寝ていていいのかもしれないけど、なんだか不安が吐き気に変わって、もはや居心地は悪くなり、布団から出る。

イラク戦争が始まってから4年。イラクは地獄に落ちてしまったが、この日本は、どうなんだろう。なんだか、息が詰まりそうで、僕の周りには、酸素が少ないような気がする。イラクでは、難民が数百万いるのに、日本ではネットカフェ難民? 街中には、ホームレスが増えている。政府がいつも説明する国益のために、賛成したというイラク戦争の効果は、どうなのか。

イラクのニュースは、今日もテロばかり。100人以上が殺され続けている現実には、胸が痛む。イラクの友人が巻き込まれていないか気になる。日本もイラクも暗い話ばかり。

そんな中で、写真が送られてきた。戦争前に出会ったスハッドちゃんという9歳の女の子がいたのだが、とっても素敵な絵をかいてくれた。両手をいっぱいに広げた少年の絵。それは、後ろにいる女の子を守っているかのようだ。それをポスターにして、何万枚も作って僕らは戦争反対を訴えた。03年戦争が始まったときに、ああ、どうしてるんだろうと心配したが、音楽学校の庭に防空壕を掘って難を逃れていたのだ。お父さんが、学校の守衛をやっているので、住み込みで学校で暮らしている。

戦争が終わると盗賊が学校をめちゃくちゃに壊していった。ピアノを壊したり、バイオリンを壊していったのはアメリカ軍ではなかった。イラク人である。隣の児童館も、ダワ党がやってきて、児童館を破壊して政党事務所にしようとした。ダワ党は、今のマリキ首相の党である。子どもたちは涙して、「イラクはひとつ!」と訴えていた。ああ、その子ども達の言葉の重み。イラクは一つになれず、イラク人同士が殺しあう状況が続いている。

そして、スハッドちゃんの写真を見るとすっかり、立派な娘になっている。もう14歳になるのだ。生きているってすばらしいなあと思う。そして、平和のメッセージを書いてくれたそうだ。あの少女の目のきらめきは、衰えることなく、輝き続けている。

先日、ジャーナリストの綿井さんの報告会に行ってきた。先月バグダッドに行っていたので、その話が楽しみだった。彼とは、04年の3月にイラクで会って、がん病棟の取材をしてもらった。スハッドちゃんにも会っているので、バグダッドに行くんだったら会ってきてと言っておいた。
「取材は厳しくて。病院の取材はできませんでした。保健省の許可がでない。挙句、賄賂を要求される」
学校もなかなか難しくて、通訳の関係する別の学校の映像を見せてくれたが、綿井さんは、危なくて行けなかったという。映画リトルバードに出てくる子ども達に再会するのだが、それも、コンクリートの壁に覆われた、パレスチナホテルまで来てもらったという。通りまで見送りたかったそうだが、外国人と一緒にいるところは見られたくないと、家族たちは、去っていった。なんともさびしい映像だった。

一方、私がであったバスラの白血病の子ども達は、この4年でほとんど死んでしまった。バスラに電話するとイブラヒムが、病院にいるという。アルラール・ジャバルちゃん(9歳)が電話口で、詩を読むように話してくれた。

神様、神様、
誰が、私たちの望みをかねてくれるの?
たくさんの贈り物で、この日を幸せにして。
私が、学級で勉強するのを助けてくれるとうれしいなあ。
科学の力で私の頭を賢くして、心をきれいにして。
私とこの国をすべての悪いことから救ってください。

うれしくなった。生きている。生きて欲しい。
この詩を友達に見せたら、「膨らませて曲をつけてみよう」ということになった。楽しみだ。
5月27日のライブで歌ってくれるという。
さあ、私はこれから布団を干して、ふかふかの布団に寝よう。
そして、子どもたちに届ける薬代、数千万円を今年度も集める計算をしなければならない。よく考えたら私の仕事はいつ倒産するかもわからない中小企業の社長のようなもの。このストレスを乗り切るのはまず、ふかふかの布団だな。太陽をいっぱい吸収して。

『イラクの子供達は今 vol.2』5月27日(日)新宿LIVEたかのや
スタート/13:00(終了〜15:30)
料金/¥3000+1ドリンク