吾輩は苦手である 6

増井淳

 リンゴが安くなってきたので、Instagramに載っていたレシピを見ながら米粉を使ったケーキを焼いた。
 材料をきちんと計って手順通りに焼いた、と思っていたのだが、米粉を溶いた液とリンゴをからめるのを忘れてしまい、焼き上がりのリンゴがパサパサになってしまった。
 
 こういう失敗をたびたびやってしまう。

 ケーキを焼く際にはあらかじめオーブンをあたためておく。十年ほど使っているオーブンには予熱機能があるのだが、マニュアルを読むのが面倒でその機能を使ったことがない。
 
 吾輩はマニュアルとかレシピ通りにものごとを進めるのが苦手だ。

 先日もグラタンを作ったのだが、鍋にバターを入れて火をつけ、きざんだ玉ねぎを入れるまではうまくいったが、どこで塩・胡椒を振りかけるかわからなくなってしまった。月に一度くらい同じものを同じレシピで作っているのにこの始末である。
 この原稿を打ち込んでいるパソコンは、数ヶ月前に買い替えた物。その時、古いパソコンからデータを移したのだが、画面に出ている指示と違う操作をしてしまい、なかなか作業が進まなかった。
 今年になってスマートフォンを使い始めたが、おもに猫の写真を撮るだけで、電話もロクにかけられないし、かかってきた電話にもどう出るのかわからない。知人にLINEをすすめられたが面倒でやる気にならない。迷惑メールがたくさんくるのだがどうしたらいいのかわからない。「スマホ かんたんガイドブック」なるものが手元にあるのだが、読む気にならない。読んでもその通りにやる自信がないのだ
 今日は運転免許の更新に警察に行ってきた。更新手順が掲示されていたのに、手順をまちがってしまった。さらに、新しい免許の受取の際には「名前でなくお渡しした紙に書いてある番号でお呼びします」と言われていたのに、それを忘れてしまい、自分の番号が呼ばれたのに気づかなかった。
 思えば教科書というのが苦手だった。学校の試験などは教科書を暗記すればいい点数がとれる。しかし、教科書に書かれていないことが気になり、まるごと覚えることができない。
 これではまるで小学生以下である。
 よく今まで生きてきたなあとじっと手をみる。
 我ながら情けない。

 子どもの頃から、指示された通りにものごとを進めることができないのだ。
 つい違うことをしてみたり、脇道にそれたりしてしまう。脇道の方がたのしそうだし、決められた筋道を通ることはきゅうくつに感じてしまうのだ。
 そもそもマニュアルとかレシピ通りに進めるなら、機械でもできるではないか。
 指示通りに行かないのが人生というものだ。
 ケーキがうまく焼けないのは困るのだがね。