ジャワの女王・女武将

冨岡三智

現在大河ドラマでは「おんな城主直虎」が放映されているが、女ながら城主であるとか、女ながら戦いに赴くという物語には、何か人々の好奇心をそそるものがあるように思う。というわけで、今回はジャワの物語で有名な女王や女武将を紹介。

●ラトゥ・キドゥル
ジャワで最も有名な女王。名前は南(キドゥル)の王/女王(ラトゥ)という意味。ジャワ島の南に広がる海に住み、精霊界を統べる。ジャワ島南の沿岸部には海に女神が棲んで、緑色の服を着た人がいると海底に引きずり込んでしまうという伝承があるが、ジャワの王家(マタラム王国とその末裔の王家)は、代々のマタラムの王は彼女と結婚することで王権を得るという王権神話を伝えている。ちなみに、ニャイ・ロロ・キドゥルやロロ・キドゥルという呼び方もあるけれど、スラカルタ王家に仕える人は、ニャイ・ロロ・キドゥルと呼ぶのは間違い(ニャイは臣下のことだから)で、女王自身のことはラトゥ・キドゥルと呼ぶべきと言う。とはいえそれもまた通称で、王家での女神の正式の名前はカンジェン・ラトゥ・クンチョノ・サリ。スラカルタ王家に伝わる舞踊「ブドヨ・クタワン」の着付(パエス・アグンと呼ばれる花嫁衣裳の着付に同じ)は女王の姿を写したものと考えられている。この女王はマタラムの王と出会って三日三晩床を共にした時に王に戦いの法を伝授し、王国へ戻る王に対して何かあれば軍隊を率いて王を助けに来ると約束する。霊界の女王だから、彼女の援軍が来たら、霊を飛ばしてのバトルになるのかなあ…なんて想像する。

●スリカンディ
インド伝来の叙事詩「マハーバーラタ」に登場する女性武将で、アルジュノ(インド版ではアルジュナ)の妻にして弓の名手である。元のインド版ではシカンディンという名前だが、実はインド版ではシカンディンは女性ではなく、前世は女性だった男性で、設定が変わってしまっている。ジャワの「マハーバーラタ」では、戦場においてスリカンディは宿敵・ビスモをアルジュノの矢(神から与えられたもの)で倒すが、インド版ではアルジュナがビーシュマ(ジャワ版のビスモ)に致命的な矢を放つ。なんで設定自体が転換してしまったのか、その経緯は分からないが、少なくともここから読み取れるのは、ジャワ人は女性が戦って敵を倒すという話に抵抗がなかったということだ。インド版の話の方が男性上位の社会に見える。

●クンチョノウング
「ダマルウラン」物語に登場するマジャパヒト王国の未婚の女王。ちなみにマジャパヒト王国はインドネシア最後のヒンドゥー教の王国で、この後イスラム教の王国が勃興するようになる。王国はメナジンゴの反乱軍に狙われている。女王はダマルウランという若者が国難を救うという夢のお告げを得て若者を探し出す。ダマルウランは首尾よくメナジンゴを倒し、女王と結婚して国王となる。この「ダマルウラン」物語は、ジャワのマンクヌガラン王家ではラングン・ドリアン(歌舞劇)として上演される。出演者は宝塚歌劇のように女性ばかり、その人たちが恋々と歌い、美しい舞踊を見せるという、なんともあでやかな舞台だ。

●レトノ・ドゥミラ
マタラム王国初代の王・セノパティが攻略したマディウン領主の娘。領主が逃走しても、彼女は剣を取ってセノパティ相手に戦う。破れるものの、二人の間に愛が芽生える。マンクヌガラン王家にはこの物語を描いた「ブドヨ・ブダマディウン」という舞踊がある。