日本のワインのはなし

大野晋

日本で一番ワインを作っている都道府県はどこでしょう?
この質問に正しく答えられる人は少ないです。

山梨県?

はい。不正解です。
正解は神奈川県です。

ああ。近所で葡萄畑を見たことがある。

はい。それも間違いです。フレッシュな葡萄は使っていません。

神奈川県藤沢市に大手ワインメーカのワイン工場があって、海外から輸入したブドウ果汁を使用してワインを製造しているんです。欧州ではワインとは認められないという話もありますが、ここ日本では立派な国産ワインとしてカウントされています。
では、二番目はどこでしょう?

今度こそは山梨県?
いえいえ、正解は栃木県です。ある総合酒造メーカのワイン工場があって、ここも輸入果汁を原料に国産のワインを作っています。ちなみに、この酒造メーカは大阪にも工場があるらしく、そこの製造量で大阪のワイン醸造量も全国で10位以内に入るくらいになっています。

山梨県はたしか、三位なのですが、これも山梨の葡萄を使ったワインというよりも、大手発酵製品会社系のワインメーカの工場での輸入果汁ワインと大手総合酒造メーカ系のワイナリーの輸入果汁ワインです。次が大阪府だったか、岡山県だったかで、岡山県もご想像通りに某ビール会社系のワイナリーで輸入果汁ワインを作っています。

結局、輸入果汁、いわゆる濃縮果汁還元で作った果汁を発酵させたワインがとても多く、日本のワイン製造量の8割ほどを占めています。その辺の事情は、以前お話しした通り、日本の農地法のゆがみと醸造用ブドウの不足、そして原料葡萄価格が高いという問題が原因です。でも、そうして作ったワインの品質に関しては折り紙つきなんですけど。

そうは言いながらも、そのおかしな日本のワイン事情も変わりつつあります。ひとつは貿易交渉の影響で輸入ワインにかけてきた関税がほぼゼロになりつつあって、安価な新大陸のワインが急速に流入しつつあること。チリとか、ニュージーランドとか、オーストラリアといった国の安い、しかも意外とおいしいワインが市場に入ってきて、輸入果汁で作ったワインの市場を食いつぶしつつあります。まあ、そういったワインをタンクで輸入して、国内の工場でボトリングしているのも神奈川や栃木でワインを作っている会社なんですけどね。

もうひとつが、農業環境の変化です。農家の高齢化が背景になって耕作地の放棄が深刻になりつつあります。田舎を車で走ると耕作を放棄された農地がとても多いことに気づくでしょう。特に山間部の農地に関しては深刻です。

その対策の一つとして、企業や法人の農地取得、ワイン用ブドウ畑への転用が進みつ
つあります。なぜワインなのかというと、日本の葡萄栽培技術が非常に優秀で、大手や中堅企業が栽培して醸造したワインが世界のワインコンクールで賞を受賞するようになってきたということもありますね。しかも、ワインは熟成に年数がかかると言ってもウイスキーほどではないですから、メイドイン・ジャパンの輸出品としても有力といったところですか。ただし、高級ワインに限ります。安価なものはチリやオーストラリアと競争になりますから。

ということでここ数年、年々、日本の葡萄で作ったワインはブームです。確かに高級ワイン、しかも1万円前後の日本のワインはおいしいです。値段も値段ですけど。かくして、我が家にも日本のワインが着々と集まりつつあります。そのうち、飲まないとなんですけどね。

問題は甲州のぶどうから作ったワインがなかなか評価が上がらないことなんですが、まあその辺の愚痴はまたそのうち語りましょう。