前月に引き続き、万博(2025)インドネシア館の話。実はインドネシア館を訪れて最初に受けた印象が、2018年にジャカルタで行われたアジア競技大会開幕式のメイン・パフォーマンスのイメージに似ている…ということだった。私は2018年9月号『水牛』に「アジア大会開幕式」を書いているが、幕開けの1500人によるアチェ舞踊(8:13~)のことだけ書いていて、メイン・パフォーマンス(1:25:19~)には触れていない。実は、大学の秋学期の授業でこの部分を分析をしてもらうことにしていたので、学生に先入観を与えないように敢えて触れなかったのだった。というわけで、今回の万博を機に書きとめておきたい。なお、アジア競技大会開幕式は以下のリンクから見ることができる。
Opening Ceremony of 18th Asian Games Jakarta – Palembang 2018 (Complete Version)
メイン・パフォーマンス 1:25:19~
メイン・パフォーマンスの舞台は島に見立てられ、スタジアムの中央に森林に覆われた山と滝、右手の方に海を配置している。その中で18地域の民族舞踊がアレンジされて大規模人数で繰り広げられる中、要所要所の場面で舞踊を背景に人気歌手が歌ったり、ピアニストがピアノを弾いたりする。このパフォーマンス絵巻は陸にいる兵士が示威活動を見せる中、船に乗った戦士たちが登場するシーンから始まる。緊張感が高まるが、しかし、船は島に戻って来たのであり、女子供も出てきて女子供が戦士たちを出迎えに来たのだとわかる。船が島に着き、青い海(布をはためかせている)の波間にはカラフルな魚(歌舞伎で使う差金の巨大版か?)が泳ぐのが見える。
ピニシ船をイメージしたパビリオンの前に立った時、真っ先にこのアジア大会のパフォーマンスの始まりが思い出された。(もっとも、アジア大会の船は帆の形がピニシのものとは違って無国籍風だったが。)パビリオンでは船に入ることで、アジア大会では船が到着することで物語が始まる。パビリオンの中に入ると本物の植物を使った熱帯雨林がある。アジア大会の舞台でも背景は森で、本物の植物も多く配置されているようだった。パビリオンの熱帯雨林の中央に滝がこしらえてあったのも、このアジア大会の舞台に同じ。そして、次のコーナーの円形空間に投影される映像の中ではその滝や滝の中(海の中?)の映像が大迫力で映し出された。ちょうど、アジア大会ではここで海の波間をカメラが映し出す。この後、アジア大会のパフォーマンスはすべて陸上で展開し、中には山の上で展開する舞踊もある。パビリオンではその後緩やかなスロープを通って2階に上がるので、ちょうど船の中に島があり、山に登るような構造になっている。
アジア大会のマスコットは、生物の多様性を表現して、インドネシアに棲む希少動物の極楽鳥、バウェアン鹿、ジャワサイをモデルにしている。これもパビリオンで希少動物をモチーフにした造形物が熱帯雨林に置かれたことに対応している。さらにマスコット3体はインドネシアの3地域の特徴的なテキスタイルモチーフの衣装を身に着けているが、パビリオンでもインドネシアのテキスタイルコーナーがあった。
インドネシアが国として海外に打ち出したいイメージは2018年当時も今もあまり変わらないはずで、だからパビリオンに既視感を感じたのも当然だろう。1970年万博のパビリオンのことはまだ調べられていないのだが、海と山からなる自然の多様性―特に海や船の重視―や生物の多様性のイメージは、1970年にはIndonesiaはまだ打ち出していなかっただろうと思う。