再会・55年目の古井戸コンサート

若松恵子

11月最後の土曜日、札幌共済ホールに古井戸のコンサートを聴きに行った。まだ雪の北海道にはなっていなかったけれど、風は澄んで冷たかった。

古井戸は仲井戸麗市がプロとして音楽活動をスタートさせた最初のバンドだ。チャボ(仲井戸麗市)が加奈崎芳太郎と出会って1970年に結成し、忌野清志郎に誘われてRCサクセションのメンバーになることで1979年に解散した。古井戸の現役時代は子どもだったから全く知らない。RCサクセションからも離れ、ひとりで唄うようになってからの仲井戸麗市に魅かれ、古井戸の楽曲についても彼のセルフカバーで初めて知った。何といっても、私にとって古井戸の魅力は、20歳の頃に書いた仲井戸の楽曲の瑞々しさだった。最初は、チャボのセルフカバーを聴くことで充分だった。けれど、だんだん、加奈崎芳太郎という人の音楽に向き合う姿を知り、彼のボーカルの魅力というのもわかるようになった。

古井戸は、チャボのギターと加奈崎のボーカル。アコースティック・ギター2本の世界だけれどフォークではなくて、ブルースブルースしているわけでもなくて、日本的でもあり洋楽的でもあるという独特の魅力があると感じるようになった。古井戸というバンド名には、英語のfluid(流体)という意味も込められていると知って、かっこいいと思った。

今回の再会コンサートの主催は、「ありがとう古井戸実行委員会」だ。2019年に加奈崎芳太郎のデビュー50周年記念コンサートを出身地の札幌で企画した際にゲストに仲井戸麗市を招き、古井戸の楽曲を演奏するコーナーが実現した。その幸せな時間への感謝と、もう一度札幌で古井戸のコンサートを企画したいとの思いでメンバーが集まり、実行委員会が結成されたという。加奈崎さんの故郷で1回しか行われない再会コンサートなら札幌まで聴きにいかなければ、と出かけた。

舞台上で、加奈崎さんは「2人とも後期高齢者で~す!」と笑っていたけれど、サポートメンバーも入れず、休憩も入れずに2人で演奏した20曲、約2時間半は素晴らしかった。最初の「750円のブルース」から気合バッチリだった。「らびん・すぷーんふる」、「まちぼうけ」、「四季の詩」・・・楽曲が持っている若々しさが(それはその歌を作った20代の仲井戸麗市の瑞々しさともいえるのだけれど)そのまま、変わらずに演奏されたという印象だった。そのことに本当に心打たれた。古井戸が持っていた魅力が、歳月によって壊されたり色褪せたりすることなく再び2人によって演奏されていることが嬉しかった。チャボの、より繊細に唱の世界を引立たせるようになったギターと年を取っても変わらない加奈崎のボーカルの率直さによって、そんな風に感じたのかもしれない。

古井戸には「さなえちゃん」というヒットした1曲があって、そのあと出したシングルがちっとも売れなかった(そっちの曲の方がずっと良い自信作だったのにという思いが言外に滲んでいた)というエピソードを語りながら、加奈崎は「僕たち1発屋です。だけどずっと今でも、やってます」と言っていて、解散後もそれぞれの道でずっと音楽をやり続けている事の自負を感じた。

メイビス・ストライプスやボブ・ディラン、ニール・ヤングのことを考えればまだまだ隠居なんて言っていられないのだろうけれど、売れるとか売れないとかという所からとうに離れて、しかも仕事としてやり続けるという事がどんなに凄い事なのかと思うと、2人の姿に励まされる。満席の会場のアンコールを求める拍手は、嵐のようだった。再現なんかじゃない、今の2人の奏でる音楽の素晴らしさにみんな胸打たれたのだと思う。