町内会の夜警

冨岡三智

「火の〜用〜心、(カチッ カチッ)」と町内会の人が拍子木を叩きながら夜廻りする時期になると、ああ、いよいよ今年も押し詰まってきたなあと感じる。

インドネシアにも町内会の夜警(ロンダ・マラム ronda malam)があって、拍子木ならぬクントゥンガン kentungan と呼ばれる木や竹で作ったスリット・ドラムを手に持ち、叩きながら廻る。これは年末に限らない。私の住んでいた地域では、兄ちゃんや爺ちゃんが数名で廻っているのをたまに耳にすることがあった。ただ、私も夜は大体外出していたので、正確な実施状況は知らなかったし、地域によっても差はあると思う。

この夜警だが、夜廻りを一通りやって終わりではなくて、一晩寝ずの番で自分たちの町内を守る。インドネシアの町内会は、日本軍政時の隣組制度を起源として法整備されている。各町内に通じる辻にはポス・カムリン pos kamling という東屋のようなものが設けられ、毎晩、町内から数人の男が出て交代で一晩詰める。ポス・カムリンの軒にはだいたい巨大なクントゥンガンが吊り下げられていて、何事かあるとこれを叩いて知らせることになっている。そこで男たちはだいたいはチェスをやって時を過ごしている。

何人かの知り合いのインドネシア人男性は、この夜警に出るのは大変だと言っていた。次の日には仕事に行かねばならないのだから。夜警に出られない場合はお金を出さないといけない(この辺は日本の町内会と同じ)が、度重なると負担になるし肩身も狭いという。

私は地方都市の町中の一軒家を借りて住んでいた。女子だし外国人だし…ということで、町内づき合いは免除されていたように思う。けれど、それだからこそ、また、私はいろいろ行事や公演を見に行って夜が遅くなることが多かったので、夜遅く帰ってきたら夜警の人にはいつも挨拶を欠かさないようにしていた。出先で食べ物をもらうことがあると、夜警の人たちにいつも差し入れるようにしていた。私が貢献できることはそれくらいしかないのだし、町内の人たちと交流してどんな人なのかを知ってもらうことが、結局は自分の身の安全につながるのだ。ジャワに住み始めて最初の頃は、なんで夜にたむろしてチェスする男性が多いのだろうと不思議に思い、少し怖くも思っていたけれど、今となっては懐かしく感じる。