舞踊作品の撮影

冨岡三智

このコロナ禍で昨年からインドネシアからの公演ライブ配信やその録画映像が一気に増えた。舞踊の映像には昔から関心があって、自分が製作したスリンピとブドヨの公演(2006-2007年、youtubeにアップしている)では映像編集にもコミットした。というわけで、今回は一般的に伝統舞踊と呼ばれる作品の映像の撮影の仕方について、思うところを書いてみる。

少なからぬ映像を見ていて感じるのが、撮影計画がなさそうだということ。カメラが正面に1台しかなくても、作品全体の展開を俯瞰して、全体のフォーメーション(踊り手の配置)を撮るべきシーンと、動きがはっきりと分かるようにある程度特定の人物をアップにしても良いシーンなどに分類して、全体の流れを組み立てるのが重要だと思っている。目指すのは、その映像を見て上演の再現が可能であることだ。少なくともそのジャンルの舞踊の展開パターンを知っている人には読み取れるようにしておいたほうが良い。私自身がスリンピやブドヨの映像編集にコミットしたときは、カメラの人とどのシーンで全体/個人を撮るのかを打合せして進行表を作り、ざっと編集してもらった後で私自身がつなぎ部分を修正した。

全体のフォーメーションを入れるのは、スリシックなどで場所移動するときである。その動きの軌跡をきちんと追えるように、移動する前から全体を俯瞰できるようにカメラを引き、移動中はカメラを動かさない。カメラも一緒に動かしてしまうと、動きのスピードや向き、距離感が分かりづらくなる。伝統舞踊では複数の人が同じ動きを踊るから、場所移動がない場面では、複数のうちの1人あるいは2人に寄って撮影しても良い。その場合でも、動きの始めの部分では全体のフォーメーションを撮ってからアップにしていく方が良い。全員が一方向を向くのか、2人ずつ対面するのか、四方向それぞれに向くのかによって振付の印象は大きく変わるからだ。

その時も全身は画面に入れるようにする。舞踊の映像で顔のアップが入っているものも多いが、それは振付や舞踊の雰囲気を記録するやり方ではない。手のアップはなおさらだめである。なぜか、欧米の撮影者はアジアの舞踊でやたらと手のポーズをクローズアップしたがる傾向がある。上半身の撮影でも不十分で、足の向きや重心の位置、体全体のポーズは、全身が映っていないと分からないし推測できない。重心の置き方というのが動きを作る上で大事で、持論だが上半身の雰囲気を作っているのは下半身である。

ブドヨ(9人による宮廷女性舞踊)の場合、踊り手の人数が多く横長に配置されるため、右から左へ、またその逆へとカメラを横に振って撮影される場面が多くなる。これはそれぞれの踊り手を均等に映すには良い方法である。しかし、ブドヨでは特定の位置にいる踊り手が最初に少しずつ移動し始め、それにつれて、全員が同じステップを繰り返し踏んでいる間にフォーメーションが少しずつ徐々に変わっていくところに醍醐味がある。カメラマンにはそのフォーメーションの変化のし始めを捉え、追っていってほしいのだが、そういう変化に気づかず、何となくカメラを振っているだけのカメラマンも多い。変化が始まる最初からとらえるためには、カメラマンは舞踊の展開をあらかじめ知っておかなくてはならない。というわけで、最初に述べたように撮影計画が必要なのである。動きやフォーメーションの変化の兆しを把握して追うことが、少なくとも伝統舞踊の撮影には重要である。