都市文化という意識

冨岡三智

ここソロ(正称スラカルタ)市では、観光都市化を目指していろんな取り組みが行われている。もちろんインドネシアは昔から観光に力を入れていた国で、ソロでもそれは同様だ。特にソロには2王宮が存在するから、観光の目玉といえば王宮であり、また王宮文化に端を発する舞踊や音楽といった芸術ものになる。だから、ソロの観光インフォメーションセンターでもらえるチラシなどには、カスナナン王家、マンクヌゴロ王家を筆頭として、ラジオ局、スリ・ウェダリにあるワヤン・オラン劇場、芸術大学や芸術高校などが観光スポットとして載っている。

しかしこういう芸術の専用機関とは別に、最近では特に、地域一帯で、あるいはまた公共の場で、町おこし的なイベントが仕掛けられるようになってきた。

たとえば昨年9月1日〜7日までソロではワヤンをテーマにした「ブンガワン・ソロ・フェスティバル2006」が開催されていたのだが、その時にカウマンというバティック産業の地域で、ある晩いろいろなイベントがあった。2階にはずらりとバティックを干してあるバティック工房の中で現代的な舞踊や影絵が行われ、その次には路地の辻に小さいステージを組んでの有名な歌手の公演があり…と、観客はその地域内を移動しながらいろんなイベントを見る。

そこでは芸術イベントの内容自体よりも、バティック工房の中を見せること、そしてその地域自体をアピールすることに力点が置かれていたように思う。この地域は私の住んでいる地域から大通りをはさんですぐ向かい側にあり、昔からよく自転車で通過していた。しかし別にバティックの小売店があったわけでもなく、表からは何をやっているのかよく分からない家が並んでいて、地味な印象しかなかった。けれど、そのフェスティバルの時に行ってみたら、新しくバティック製品の小売店も何軒かオープンしており、またバティックをする婦人像を軒先に据えている工房もできていた。これらはどれも、バティックの商取引をする人たちにとっては直接関係のないものである。これらは明らかに、バティック産業の地を見たいと思っている(潜在的)観光客のために設けられたものだ。

また先月のことで言えば、5月12日に花市場でジャズ・イン・パッサールという催しが、また5月17〜20日まではヌスッアン市場、トリウィンドー市場、大市場、花市場でそれぞれ芸術フェスティバルがあった。私はこれらのイベントは見ていないが、新聞の写真(花市場でのイベント)を見た限りでは、子供の踊りがあったりして日本の「○○祭り」という感じの雰囲気のようである。どちらもマタヤ・アーツ・アンド・ヘリテージというプロダクションが手がけている。

同じマタヤが手がけているイベントに、隔年実施の「ソロ・ダンス・フェスティバル」というのがある。(これはソロ=スラカルタのダンスの催しではなくて、ソロ=単独の舞踊の催し)今までは芸大の劇場で実施していたのだが、今年4月はオランダ時代に建てられたDHC’45という建物の敷地内で実施された。私は1日目の計3演目しか見ていないが、1人目は鉄の中門の外側で上演し、2人目はその門の中を入ってずーっと移動しながら、ちょうど先ほどの門の内側で上演し、3人目は、2階建ての建物の裏階段の下から上へ、そして2階のバルコニーで上演した。

劇場専用の建物に限られた芸術家だけが集まるというのではなく、芸術をもっと身近なものにしたい、一般の人が多く集まってくるところに芸術を進出させていきたい、とマタヤは考えているようだ。さらにソロの町には王宮以外にも文化財としての建物が多くあり、そのような場で芸術イベントを催していきたいということだった。つまり、都市固有の価値、歴史的記憶に裏づけされた芸術を打ち出していきたいということなのだ。以前は芸術プロダクションを名乗っていたマタヤが、最近アーツ・アンド・ヘリテージと改名したのもそのためだということだった。

(続く)