グロッソラリー ―ない ので ある―(12)

明智尚希

 1月1日:「やっぱり買い換えたほうがいいかもな。みんなが持ってるってことはそれだけいいものなんだろうし。迷ったら買うなとか言う人もいるけど、今回ばかりは反対させてもらおうかな。迷ったから買う。なんか変だな。迷っても買う。まあどんな言い方でもいいんだけど、今は買うほうが八割、買わないほうが二割ってとこだな――」。

ハヤク o|`┏ω┓´|ノ_彡☆キメナサイ

 言葉は話し尽くされ書き尽くされた。先哲が言及した以上に。今更、記号論も意味論もない。ラングとパロールもない。シニフィアンとシニフィエもない。人類史上、言葉ほど使われたものを探すのは困難だ。変化こそすれ、進化するでもなく発達するわけでもなかった。「はじめに言葉ありき」以来、これほどのご長寿は他に例があろうか。

ナニユユュュュュュュュ(*`ロ´*ノ)ノ 

 文化立国、観光立国、技術立国、まあいいじゃろ。だが何がしたいんじゃ。「立国」のコンセプトのみ先走って、あとに残るものは何かあるのかね。かりそめにも○○立国という看板を掲げたからには最先端をひた走ってなきゃならん。ところがどうだ。どれ一つとっても頭打ちかカオスの極みじゃないか。最先端が袋小路じゃ思いやられるわい。

( ´д)ヒソ(´д`)ヒソ(д` )

 信雄は三郎の息子である。命名の由来はというと、まず男の子だから「英雄の『雄』」が挙がったが、母親の幸恵が「オスみたいで嫌だ」とごねたものの、夜のアレがきっかけで決着した。信雄の「信」は、「信用できる人」という意味でつけられたのだが、今ではいっぱしの詐欺師になりおおせ、信用できない人の意味となった信雄なのであった。

ヽ(oゝω・o)-☆ だよっ

 人間は火、言葉、道具を使えるので生物の中で最も優れていると言われている。だがこれは人間が人間のために設定した基準だ。犬だったらどうだろう。人間の一千万倍から一億倍の嗅覚を持ち、五倍から七倍の聴覚を具えている。基準要素が異なるだけで、王座につくものは変わる。godとdog。少なくとも神に近いのは犬のほうであるらしい。

ふ━━( ´_ゝ`)━( ´_ゝ`)━( ´_ゝ`)━━ん

 「ボランティア」とは「自発的な」という意味である。ボランティア活動は、困難な仕事を自発的にやるなんて素晴らしいと一段上に思われがちだが、勘違いもはなはだしい。活動している人間は、活動自体から満足や充実感といった反対給付をまんまと獲得している。活動されている側は、果たしてどう感じているのか知りたいところではある。

ヾ(゚Д゚ )チョットオクサン

 金太郎の前掛けいっちょで卒業式に乱入した。これだけでもあばれはっちゃく。更にあばれはっちゃくなことに、鼻くそで校長先生を制作した。シミュラークルにしてブリコラージュ。もっとあばれはっちゃくなことに、校歌を作って演奏して歌い、全生徒の役も演じた。前掛けはどこかに消え去っていた。開脚前転の真っ只中で最後っ屁だよ。

(゚□゚*)ナニーッ!!

 1月1日:「そうだ。松子に聞いてみればいいんだ。なんで気づかなかったんだろう。なんか抜けてるんだよなあ俺は。こうやってずっと一人で考えても埒が明かないし、確かあいつはスマホを持っているはず。松子おばさん、知ってるだろ? 俺の妹だよ。会ったことあったっけ。ない。あそう。え。忘れた? まあそのうち会うだろう――」。

(0’∀^0) マツコデス

 世の中は厳しい。学校でそう教わった。厳しいのは確かだった。不条理に満ちた厳しさである。正しい言動が正しい結果を導くのは珍しい。子供あるいは学校の先生にはわかりかねる、権力構造があり利害得失がありコネとカネがある。妙な夢や希望をかき立てさせることなどせずに、早い段階で人間社会の表裏を洗いざらい暴露してはどうか。

( ゚д゚)ンマッ!!

 夏の猛暑日。バケツの底の残り水に大量のボウフラが湧いていた。なぜ自分はボウフラやウジ虫やダニやノミではなく、あろうことか人間様とやらに生まれついたのか。そんなことを反芻しながらバケツの底を覗く。くねって泳いでいるもの、早くも死んでいるがごときもの。この中で小賢しくて虚栄心の強いものが、いずれ転生して人間になる。

∠( ゚д゚)/ 「え」

 ほれ、あれ、なんつうんじゃったっけ。雨が降ったり降らなかったり、雪が降ったり降らなかったりするとこじゃ。雨や雪じゃなくてもいい。みぞれでもひょうでも何でもいい。え? 雲? 違う違う。雲はぷかぷか浮いとるだけじゃ。そうじゃなくて明るくなったり暗くなったり、そこの高いとこをこう飛行機がす〜っと横切って行って――空。

オーマーエーハー ((ミ ̄エ ̄ミ)) アーホーカー

 毎日のそこかしこに死ぬチャンスが転がっている。入線してくる列車、人気のない暗い裏道、数知れぬ交差点、身の回りの鈍器や刃物、枚挙にいとまがない。誰もが死ぬチャンスをぎりぎり回避しながら、生きるチャンスにありついている。もし一秒早く家を出ていたら、もし一旦足を止めていたら、もし携帯電話に目を落としていたら……。

(゜Д゜三⊂(゜Д゜)スカ。