若い医師の声を聞いて
窓から
夕闇にぽつりぽつり
灯る あかりを見ながら
バッハのピアノ曲をかける
涙ぐむまいと思っても
音楽を聴く心をなくしていた
数週間は
迷路とも 砂漠ともちがう
きっとちがう
烈風が吹いていたのが
いまはわかる それが
凪いだのが
いまはわかる
音が耳に心地よく入ってくる
やわらかく
含んだ
音のつらなりに
この世にまだあるという
運命のやさしさをまさぐるように
ぽつりぽつり灯る火に
たちまち濃くなる闇に
全身で感じる
ある と知るぬくもり
いる と感じるぬくもり