ビアフラ/69/東京

くぼたのぞみ

そこから
きみは
歩いてきた

ことばを
知ったのは20年後で
69年ではない

写真は
真夏の東京の駅頭にあり
水煙が
真冬の本郷にたちこめた年
おぼえてる?
ミニスカートにサンダルばきの
きみがそれを見たのは
クワシオルコル
巣鴨だったか大塚だったか

バルーンのお腹に
枯れ枝の手足
パネルに貼られた写真は
足早に通りすぎる者の目にも焼きつき
それでいて
どこかうさんくさい埃もかぶり
モノクロだったから
わからなかった あなたの
抜ける髪の毛が赤さび色だったなんて

そんなプロパガンダ元年
疑いをもって ひとりで
歩くこと 精神の
ひのようじんに
5人組はいらない

69はことばがこわれた年

そこからきみは歩いてきた
ほとんどひとり
剥がれるように
まっさかさまに
日本語の海へ
モンデットは波を見たの?

あなたが死んだとき世界は沈黙していた

ふたしかな
恩寵

恥辱
が裏と表だなんて
合点が行かない粉雪の舗道から
歩いてきて
歩いていて
歩いている