天球のなかで

璃葉

世界のうごきによって、気づけば前の生活に戻ることができなくなっていた。とにかく今はひとり部屋にこもって、ひたすら鉛筆で落書きをし続けている。この奇妙な暮らしのなかで、とにかく自分を安心させてくれるのは身のまわりの物と、電話越しに聞く友人の声。
机の下にゴミのように転がっていたメモを見て、改めてそう思った。なぜこれを書いたのかは忘れた。でもこの単語を見るとなんだかとてもときめくのだった。

本 裏紙 ノート ペン 鉛筆 PC 女友達との電話
コーヒー タバコ ビール おいしいウイスキー 

部屋に閉じこもって何日経ったか。鬱々するどころか、最近はご飯もどんどん美味しく感じられる。
散歩がてら食料を買いにいくのも。
時間を忘れて本を読みふけるのも。
夕暮れの星と月をみる楽しさも、どんどん研ぎ澄まされていく。
体内のどこかで、仄かに光が灯ってくれている。

NASAの運営する「Astronomy Picture of the Day」というwebサイトには、毎日何かしらの天体写真や動画がアップされる。ある日更新されていたのは、世界各地の星の動きを定点カメラで、早回しで見せる動画だった。ピピピと輝く無数の星が、山脈や光る街の後ろで一定の方向にぐんぐんと上がって沈んでいくのを、何度も繰り返し再生しては凝視する。このような動画は腐るほど見てきたはずなのに、目が離せなかった。
現実の空の動きはあまりにも緩やかで星も見えにくく、自分が立っている場所がじつはまわっていることも、そこにある空が無限の宇宙の窓であることも忘れてしまっている。そういえば私は、元素が集まったとてつもなく不安定な球体に、奇跡的に生きている。