やけに冷える朝だと思っていたら、細かな雨からみぞれに変わり、やがて雪に。咲きかけの桜としっとりした大粒の雪の組み合わせは何やら奇妙で、机に片肘をついて窓の外を眺める。春分の日に雪だなんて、と思いながら、咲いてしまった花やつぼみの元気がなくなってしまわないか少し心配になりながらも、その光景から目が離せない。
そんな心配は無用だったかのように、次の日から気温はぐんぐん上がり、1週間後には桜は満開になった。桜の花はいつも突然華やかに開いて、わりとすぐに散ってしまうから、みなさん急いで花見に来ているような気がする。窓の向こうでは散歩をする人、レジャーシートをひいて花見をする人たちでいっぱいに。楽しそうな話し声、笑い声が聞こえて、ようやく春を実感する。
数日部屋に引きこもっていた私もさすがに外へ出たくなり、作業を中断することにした。寒い時期からずっとやりたかった観葉植物の鉢の植え替えをしようと思い立ち、散歩がてら種苗店に向かう。青空の下にドドンと咲き誇る桜の白色が眩しい。花の香気と、様々な粒子によって霞んだ空気に包まれながら桜のトンネルを歩いていると、とにかくこの空間で酒を飲むべきだと思ってしまう。
種苗店には春の花や植物の植木がずらずら並んでいた。その脇を通って鉢のコーナーへ。いたってシンプルな常滑焼の駄温鉢を選ぶ。小さいころからこの鉢が一番好きだ。シンプルで安くて、暖かい茶色の鉢。帰りに麦酒の小瓶を買って自宅へもどる。窓辺に腰をおろし、プラスティックの鉢から駄温鉢へ樹をうつし、土をまんべんなく入れていく。株元にたっぷり水をやると、入れたての土はどんどん水を吸い込んでくれた。植物とともに日差しを受けて、麦酒を飲む。
夜11時ごろに銭湯に出かけ、少しのぼせ気味に。帰りしなにまたもや麦酒を買ってしまう。花見客はすっかり消え、あたりは静まり返っている。風が吹き、桜の雪がざあざあ飛んでくる。缶の麦酒を飲みながら桜吹雪をくぐり空を見上げると、膨らみかけた月がぼんやり霞にとろけていた。