阪本順治監督の「エルネスト」が第32回高崎映画祭の最優秀作品賞に選ばれたというニュースを見てうれしく思った。テレビCMも流れず、先日見かけた「日本アカデミー賞」でも全く取り上げられていなかったので、何か黙殺されているようで、佳作なのに残念だと思っていたのだ。
2017年10月公開。銀座スバル座の上映を見に行って、上映後に阪本監督と主演のオダギリ・ジョーの舞台挨拶を聞いた。オダギリ・ジョーが「自分の集大成」と語っていたけれど、新人時代に出演していた阪本監督の「この世の外へクラブ進駐軍」の頃と比べて、成熟して男らしくなって、静かな魅力を湛えている姿に好感をもった。
「エルネスト」は、祖国ボリビアの軍事クーデターに抵抗するためにゲバラが組織した民兵として戦い、25歳で死んだ日系の医学生フレディ前川の短い生涯を描いている。
自分は何をすべきか考え、抵抗の戦いをすることを静かに決心していく姿を、1人きりでその厳しい選択をしていく姿を、オダギリジョーは彼の身体を通して魅力的に表現していた。心情を吐露するようなセルフはほとんどなく、そのような生き方をしていく人間の美しさというものを、彼の佇まいの美しさをもって演じることに成功していたと思う。その意味で、この作品は彼の集大成になったと私も思う。声高な主張や、わかりやすい説明が無いことがこの作品の品なのだけれど、その分ヒットはしないのかな。
ゲバラが広島を訪問したエピソードが取り上げられている。取材した日本の新聞記者がたった1名だったということも。しがらみや情勢判断からではなく、自分が心から大切だと思うものを大切にするのだというゲバラの揺るぎない姿が印象的だ。
「エルネスト」はキューバとの合作だ。社会主義国キューバとの交渉を粘り強く行って実現した作品だという。美しい佳作だ。今、日本でこのような映画が作られることに意味があると私は思う。