水面にうつる夏

璃葉

窓の外からは蝉の声が聞こえ、昼を過ぎると陽の光は一層強くなっていく。
夏という季節は好きだけれど、街中で過ごす夏は嫌いだ。ビルとビルの間を吹き抜ける熱風、極端に寒いオフィスやレストランの室内は、人の過ごす場所ではないといつも思う。
外と内の温度差によって、不自然に汗をかく日が続く。これに慣れてしまうと、もう冷房なしでは生きていけない。
毎年、東京の真夏を無理やり乗り越えている気がしてならないのだ。

自宅にもどり、買ってきたルッコラとトマトを皿に盛った。バルサミコ酢とレモン汁、塩をかけて食べる。
窓から見える空は次第に暗くなり、大粒の雨が降り始めた。突然、風がまっすぐ網戸を通り抜けてきた。土や草の青くさいにおいが混じった風だ。湿気は最高潮となり、自分の肌も、さわるとぺたぺたする。
雨粒はすぐに強くなり、地面や窓ガラスを叩いた。蝉の声も、降り始めは元気がよかったが、雨が強くなるにつれて鳴かなくなった。

「甕覗(かめのぞき)」という色の名がある。薄い水色のことをそうよぶ。
白い布を藍染めの甕に浸すとき、またはその甕の水面にうつる空が薄い水色だということから名付けたようだ。一雨通り越したあとの空は、まさしくそんな色だった。
この茹だるような暑さを人間のためにどうにかしてくれるのは、やはり夏そのものだった。夕立の後のひんやりした空気は、夜の遊歩道を散歩する気持ちにさせてくれる。
のぞき込むようにして、夏の始まりを見つけていく。